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「よー神田」

「おう」

「(あれ?今返事した)」



いつもなら無視されるのに、珍しく返事が返ってきたことにティキは驚きでパチパチと瞬きを繰り返す。

どこかご機嫌で嬉しそうな神田に「あ、何かいいことあったな」と確信するティキ。
こういう時の神田をいじるのは非常に楽しいことを知っているティキはいい笑顔を浮かべた。



「何。いいことあった?」

「あ?…別に」

「別にってことはあったんだな」



ティキの言葉に神田は無視すると袴から普段着のシャツに着替え始める。
どうやら教える気はないらしい、と判断していると仲のいい部員であるマリがニコニコしながらこちらに近づいてきた。



「彼女が来たんだよな、神田」

「へっ!?彼女!?」

「違ぇっ!!」

「なら、気になっている女の子かな」

「あぁ、噂の喫茶店の彼女か」

「だから違うっつってんだろ!!」



ムキになるということは図星なのだろう。若干顔も赤いところを見ると照れているらしい。
面白いことになってるじゃん、とティキはにやにやしながらマリに話しかける。



「何々、何しに来てたわけ?」

「護身術を学びたいって言ってたぞ」

「おい、なんで知ってんだよ!」

「聞こえただけだ」



ハハハ、と爽やかな笑顔を浮かべるマリ。
異常に聴覚が優れているマリのことだ。耳を澄ませて二人の会話を聞き分けていたのだろう。
神田は大きく舌打ちすると顔を背けながら「教えてやることになっただけだ」と呟いた。

教えてやることになっただけ、ね。だけじゃないんだろうなぁ。

内心喜んでいる神田のわかりやすさにティキは笑みを浮かべると神田と肩を組んだ。



「いいか、押すなら一気に押し倒すんだぞ?」

「っっっ…お前のそういうところが…大嫌いだ!!!!」



顔を真っ赤にして神田は怒鳴り散らすとドスドスと足音を立てて道場を去っていく。
その背をははは、とマリとティキは笑いながら見送る。

二人はわかっていた。あの初心な神田がそんな下心をもって教えるはずがないと。

しかし、ここまで過剰に反応するということは彼女のことが本当に好きなのだろう。
茶々をいれながらも応援してやるか。

そう二人で言い合うとティキは神田の後を追ったのだった。


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