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あー頭いてぇ、あいつのせいで飲み過ぎた。
そう呟きながら神田は大学から帰る道をゆっくりと歩く。
昨日幼馴染(いや腐れ縁)であるティキと飲み明かし、部活にも行けないほど飲んだ。
そのつけとしてこの酷い二日酔いだ。酒を飲んでも飲まれるなというが、全く教訓になっていない。
くそ、と小さく悪態をついているとどこからか香ばしいいい香りがしてくる。
その香りはどこか心を落ち着かせてくれ、二日酔いの神田の中へすんなり入っていった。
香りを頼りに歩いていくとひっそりと建っていた喫茶店に辿り着く。
こんなところに喫茶店があったのか、と驚きながらも中に入ってみる。
「いらっしゃいませ」
心地の良い低い声が神田の耳を擽る。
カウンターに立つ男はどこか優しげな面持ちをした品のいい者だった。
当たりか、と満足げな笑みを浮かべるとカウンターの端に座る。
コーヒーをくれ、と言うとマスターは再び笑みを浮かべて「かしこまりました」と頷いた。
「姫、コーヒー」
「はい」
奥から一人の女が出てきたかと思うとコーヒーを淹れる準備をし始めた。
今時珍しい長めの黒髪にマスターと同じ雰囲気をもつ優しげな女。
慣れているのか手慣れた手つきで火をつけてコーヒーを淹れ始めた。
漂ってきたのは先ほど嗅いだ馨しい香り。…この人が淹れていたのか、と自然と目を奪われる。
こぽこぽ、という穏やかな音とともに淹れられたコーヒーが目の前におかれる。どうぞ、と優しい笑顔もつけて。
――その笑みがどこまでも優しくて、温かかったから。
神田は思わず彼女の笑みに見惚れてしまっていた。
「…?何か?」
「…いや」
不思議そうに首を傾げる女に神田は慌てて視線を逸らし、いい香りのするコーヒーに口をつける。
…思っていた通り、二日酔いの体に染みわたるような旨いコーヒーだった。
再び当たりだな、と笑みを浮かべて顔をあげるとそこには女はもういなかった。
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