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「いらっしゃいませ。…あら、神田さん。今日も来てくださってくれたんですね」
「あぁ。…コーヒー」
「はい」
いつもの席に座るとコーヒーを淹れ始めた姫を神田は優しく見守る。
あれから毎日、神田はこの喫茶店に通っていた。…もちろん、姫に会うために。ついでにおいしいコーヒーを飲むために。
優しい手つき、優しい声、優しい笑顔…話せば心地のいい言葉が神田の中に染み込んでくる。
女なんてうるさくて、何を考えているのかわからない腹黒いものだと思っていた。
けど、姫の言葉はいつも真摯で、優しく…沈黙が心地のいいものだった。
この雰囲気に飲まれてしまえば、もう揺蕩うだけだ。
お待たせしました、という言葉とともに出されたコーヒーを飲みながら神田は姫を見やった。
「…今日、マスターは」
「あぁ、今買い出しに行っています。どうやら生クリームがきれてしまったみたいで」
「そうか」
「神田さんに新作のスイーツを食べさせたいと張り切っていました」
「…オレが甘いものを好まないと知っててもか?」
「だからこそ、甘いものが苦手なお客様にも食べていただけるスイーツを作り上げたそうですよ」
抹茶スイーツだそうです、と続ける姫はいつの間にかもう一つコーヒーを淹れていた。
他に客はいないところを見るとどうやら自分の分らしい。
カウンターの奥に置いていた小さな椅子を持ってくると座ってゆっくり飲み始めた。
「サボりか?」
「ふふ、休憩って言ってください」
「客の前で言うか?」
「いいんです、神田さんだから」
まるで自分を信用しているような言いぶりに神田はまんざらでもない笑みを浮かべる。
マスターが帰ってくるまで、この優しい時間はずっと続いていった。
(ただいまー。…おぉ、神田君、いらっしゃい。ちょうどよかった。君に食べてもらいたいものがあるんだ)
(…もう帰る)
(冷たいこと言わないでくれ。あと1時間あれば作れる)
(待てるか!帰る!!)
(あはは、短気だなぁ)
(あ、またマスターにからかわれてる。マスターも好きよね、神田さんをからかうの)
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