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昨日のことを思い出して、もやりとした気持ちを吹っ切るように道場で竹刀を振る。

優しい笑顔を他の奴にも見せているかと思うと……

ダンッ!!という音を立てて踏み込むと「気合い入り過ぎじゃね?」と軽い声が聞こえてくる。
神田は汗もそのままにギロリとその声の主を思いっきりにらみつけた。



「うるせぇよ、その足で道場に入るんじゃねぇ」

「怖っ!!…悪かったよ。なぁ、今日、飲まねぇ?」



ほら、と掲げられたのは滅多に手に入らないいい酒。
神田は心の中でしばし葛藤したが、ぷいっと前を向き、一礼すると更衣室へと移動していった。

それが答え。

分かりやすい態度にティキは笑みを浮かべると「買ってきたかいがあったかな」と高かった酒を見やる。
シャワーも浴びてきたのだろう。
汗も流してさっぱりした状態で出てきた神田は行くぞ、と言って更衣室から出ていく。

はいはい、と返事をしながらいつものように神田の家へと向かう。
大学に近いのは神田の家だ。必然的に神田の家で飲むことが多かった。
広々とした部屋だが、物があまりない殺風景な部屋なので余計に広く感じる。

適当に買ってきたつまみを広げながら適当に乾杯をすると二人で好き好きに飲み始める。



「…なぁ、最近付き合い悪いよな」

「あ?…んなことねぇよ」

「オレの調査によると」

「は?」

「お前には女ができた」

「あ゛?」

「お、図星」

「ふざけんな」



ぐいっと酒を煽る神田にティキはさらに確証を得る。
黙って飲む神田はいつも以上にペースが速い。

そんな神田を見やりながらティキは小さな笑みを浮かべる。

あの堅物神田に女ができるとは……一体どこで出会ったのだろう。
しかもこの様子ではかなり肩入れしているようだ。



「…いい女そうだよなぁ」



そうぽつりとつぶやいた。


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