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私の名前は姫。かの有名な代議士、シェリル・キャメロットの娘だ。
しかし、父が代議士であろうと私は普通の娘。
大学だって行くし、バイトだってする。大好きなコーヒーを淹れられるこのお店はマスターと父が親友なので好意で働かせてもらっている。
マスターはいい人だし、最近仲のいい常連さんもできたし、楽しいことばかりだ。
今日もラストまで手伝い、お疲れさまです、とマスターに挨拶して帰路につく。
少しだけ遅くなってしまったが、人通りも多いし大丈夫だろうと歩いて帰ることにする。
本邸にも自分の部屋があるが、ここからだと一人暮らししている部屋の方が近い。
しかし遅い時間といえば遅い時間。早く帰ろうと少しだけ歩く速度を速める。
急いでいたことが悪いのか。…前を見ていなかったことが悪いのか。
ドンッ!と誰かに勢いよくぶつかり、あまりの衝撃に姫の体はその場に倒れ込む。
「いった!いってぇ〜な!ちゃんと前見てろよ!!」
「…っ、ごめんなさい…」
「あ〜?聞こえねぇよ!!」
「ごめんなさい…っ」
「悪いと思うなら慰謝料払えよ!あぁ!?」
「…っ」
怖い。初めて遭遇してしまった。本当に酔っ払いに絡まれることなんてあるんだ。
そんなことを冷静な頭が冷静に呟く。
でも本当は頭の中はパニック状態で、何も話すことができなかった。
委縮する姫に対して酔っ払いはさらにエスカレートして姫の腕を掴んでどこかへ連れて行こうとする。
離して、と言いたかったけど、怖くて声が出なかった。でも、叫んでいた。
――誰か、助けて…!!!!
「おい、そこまでにしとけよ」
ふいに手が離れたかと思うと低い声が耳元で聞こえてくる。
え、と驚いて顔を上げれば不機嫌そうな顔をした神田が男の手をひねりあげていた。
神田さん、と彼の名前を呼ぶと同時に男は「離せッ!!」と叫んでどこかへ行ってしまう。
安心したら体から力が抜けてその場にへたりこみ、小さく息をつく。
「神田さん、ありがとう、」
「てめぇ、バカなのか!?こんな夜遅くに一人で…っあぶねぇだろうが!!」
「…っ…ごめん、な、さい…」
「ちっ…」
小さく舌打ちまでされて、姫の心は少しだけ重くなる。
迷惑を多大にかけたから、面倒くさく思っているのだろう。
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