10



あの穏やかな笑みを浮かべながら恐らく斎藤はかなり好戦的な人物なのだろう。
剣心に刀を向けるとすぐに斬り合いぎ始まった。

…にも関わらず私と沖田はもはやお互い刀を向けてすらいない。




「…ねぇ、沖田」

「総司です。何です?」

「何で、私を斬らないの?」




ずっと疑問に思っていた。

私は攘夷志士、沖田は新撰組。いわば、敵同士のはずなのに。
刀を交えることはあれど、いつも本気じゃない。
私が一度本気の殺気を向けたことがあるが、沖田はそれを簡単にかわしていた。
―――どうして、本気を出さない?

どうして、私を斬らないの?
どうして…私に笑顔を向けるの…?

わからないことばっかりで、予想すら立てられない。

そんな私の疑問を沖田は幼子に向けるような笑みを浮かべた。




「最初は、ただの興味でした。女ながら人斬りである貴女への純粋な興味から斬らなかった」

「…ナメられたものね」

「でも、今は違います」




あなたが好きだから。




「…え…」


「好きです、沙梛さん。女性として…あなたが好きです」




時間が、止まった気がした。

優しい瞳で私の目を見つめた彼の言葉に何も言葉を発することができない。

彼は今何て言った…?私のことが、好き?

何それ、どういうこと?
私は今まで父の役に立つために様々なことを勉強してきた。
その中で身近にいた人が好きな人ができたとか聞いたことはあったが、その気持ちを体験したことも、想像したこともなかった。

…好きって、何?それは父様が好き、という気持ちと何が違うの?


風に乗って沖田の言葉が隣で戦っていた斎藤と剣心にも聞こえたようで二人の動きがぴたり、と止まっている。

しかし、未だ混乱している私は真っ直ぐ見つめてくる沖田を見つめ返すことしかできなかった。

- 10 -

*前次#


ページ:


back
ALICE+