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いつも行く甘味屋はちょうど人が少なくてすぐに座ることができた。
女将さんに葛餅とお茶を頼んでぼぉっと通りすぎる人々を見つめる。
…こんなんじゃ上の空もいいところね。今なら斬られてもおかしくない。

はい、おまち、の声と共に葛餅もお茶が出てきて、私はお行儀よく手を合わせてから食べ始める。
もっちりした感触に舌鼓をうっていると隣に誰かが座ったので「誰だろう」と目線を隣にやれば、




「……っ!」

「あはは、そんなにびっくりされるとは思わなかったなぁ」




にっこり笑う沖田か座っていた。

昨日の今日だしまだ気持ちの整理もついてなかったから思わずびっくりして声が出なかった。
…ていうか何で隣に座ったのよ!?
もっと…気まずいからお店変えるとか、離れた席に座るとか、色々できたでしょうに!

神経図太いのかただの女心のわからない鈍感なのかそれとも両方なのか……

「あ、同じものください」と何もないように頼む沖田に呆れた視線を送りつつ葛餅を一つ食べる。




「僕も葛餅好きなんですよね」

「―――っ!」

「あ、意識してくれた」

「あ、のねぇ…!!」

「怒った沙梛さんも可愛いですね」

「(もうやだ!)」




あぁもう本当にこの人は…!!
自由というか私のペースを崩すのが上手いというか…!

運ばれてきた葛餅を美味しそうと喜ぶ沖田を横目に私はお茶を飲み干す。
温かいお茶に少しだけ心和んだ。




「…今は、いいですよ」

「え?」

「今は、いいです。でも……」



もし、この動乱の時代が終わったら、



「その時に、返事をください」




にっこりと再び私に笑顔を向けた沖田は、何故かどこか寂しそうで。
何でそんな顔するの?と聞けるはずなく、私はただわかった、と頷くことしかできなかった。

(彼の命が燃え尽きようとしていることも、知らず)


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