15



その日は珍しく嫌な予感がする夜だった。

私に仕事は入っていない。…剣心単独の仕事。
父は料亭にいるし…この胸騒ぎは一体何だろう?

薬の調合をしながらぼんやり考えているとかたり、と井戸の方で音が聞こえる。
刀を持って井戸の方へ行くと……




「剣心?」

「……姫」

「…!その頬の傷…」

「不覚をとって…」




剣心の頬にある大きめの切り傷。
未だ血が流れ続けていて、被ったであろう水と一緒に頬を伝っていた。

私は思わず裸足のまま庭先へ出ると剣心に駆け寄る。
そして冷たくなった傷のある頬に手をあてると剣心を見上げた。


…今のあなたに、私は見えてる?




「…姫、手が汚れる」

「剣心の血で手は汚れないよ。…他の人の血で汚れてるけど」




私も人斬りだからね。


そう小さく笑うと剣心はそうだったな、と静かに目を伏せた。

―――今のあなたは何を考えてる?
人斬りになったこと、後悔してるのかな?

…やっぱり、あなたは人斬りとして優しすぎる。




「…風邪ひくわ。中に入ろう」

「あぁ」

「……剣心」




ぎゅっと剣心の体を抱き締める。
この冷たくなった体を、心を、暖めるように。

剣心はそんな私に何も言わなかったが、少しだけ私の背中に手を回して私の体にすがるように抱き締め返してくれたのだった。

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