18



父から頼まれた調査に追われ、人斬りの仕事から一時的に外された私は夜に調査を行っていた。
敵はかなり慎重なようで、中々尻尾を出さない。
たどり着きそうになっても何故か途中で形跡が途切れる。
まるで蜥蜴の尻尾切りのように……

…まさか、敵に私の存在を知られている…?




「…いや、そんなはずない」




私は志士の中でも人斬りであり医師という立場。
いざというときの監査方と知ってるのは父のみ。
父が藩を裏切るわけないし…じゃあ、一体誰が私の役割に気づいている?

わからない、と眉をひそめながら歩いていると「姫」と呼び止められる。
誰が、なんて声だけでわかり、一旦思考を端の方に置いてから軽く笑顔を作った。




「剣心。どうしたの?」

「…いや、何だか久しく感じて…」

「お互い忙しいものね」




そうだな、と軽く目を伏せた剣心に悲しみの色が帯びたからわざとにっこり笑ってみせる。
…剣心が人斬りであることに苦しさを感じているのは知ってたから、少しでも笑ってほしくて。




「そうだ、剣心!久しぶりに夜、一緒に出かけない?祇園祭中だし、楽しいと思うの」

「…すまない、先約があって…」

「……そっか。仕方ないね」




…きっと巴さんなんだろう。
少しだけ息苦しさを感じたが気づかないふりして笑った。

剣心は少しだけ逡巡するような仕草を見せたが、すぐに結論が出たのだろう。
私はとても真剣な眼差しで見返した。




「宮部さんの話は聞いたか?」

「…火を放つっていうのなら」

「桂さんは?」

「もう知らぬと呆れてらっしゃったよ。…正直、火を放つなんてそんなことうまくいかないと思う」

「…そうか……なら、姫は京に」

「いるよ」




剣心は何とも言いがたいような顔をしていたが、それ以上何も言わなかった。

けど、どこか表情なく…小さな声で何かを呟いた。




「…京を出てほしいと言ったら…」

「え…?」

「いや…何でもない」




じゃあ、と言って立ち去った剣心の後ろ姿を黙って見つめる。

…どんな意味で言ったのか今の私には想像もつかなかった。

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