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しばらく無言で歩き続けたが、突然腕を掴んだ非礼を詫び、ようやく足を止める。
父は沖田のことは何も言うことなく、ただ静かにことが起きていることを説明してくれた。
藩内の裏切り者は別の者が調査すること。
新撰組が池田屋を襲撃したことによる、新撰組の実質的な地位の向上。
…これから志士の規制が厳しくなること。
父は厳しい表情ながら私から視線を外さずに言い放った。
「お前には前線を離脱してほしい」
「…それはしばらく身を隠せと」
「いや……志士をやめろと言っている」
「…っ!?」
あまりの言葉に思わず思考が停止する。
ーーー志士を、やめる?
まだ維新を成してないというのに、離脱しろと…?
「何故ですか!?私はまだっ…」
「………やはり、女には無理だったのだ」
「……っ、それ、なら…!」
「命令だ、姫。お前は志士をやめなさい」
何処までも静かな瞳が絶望的な命令を下す。
どんな命令でも私は遂行しようと努力してきた。
…これも、最後の仕事と考えるしかないのかな……
悲しさを必死で抑えながら「わかりました」と頭を下げる。
「…お前は今までよくやってくれた。
志士をやめても私の娘ということは変わらない。
どうだ?これから藩邸で過ごし…誰かの嫁になるというのは」
「………嫁……」
そうだ、と穏やかに微笑む父に自分の中で想像する。
桂の名があれば恐らくそれに釣り合う人との結婚になるだろう。
今時政略結婚なんて珍しくないし、普通である。
顔もしらない男と結婚して、それなりの生活に、子供ができて、それで……ーーー
「…申し訳ありません、父様。お話は嬉しいのですが、私は…しばらく旅をしたいと思っております」
「……そうか」
わかった、と微笑んだ父に深い感謝を込めて頭を下げる。
普通と呼ばれる幸せは、私の本当の幸せじゃない気がした。
私の幸せは…人々の幸せを守ること。
…志士として人々の幸せを作ることができないのなら、せめて…守らせてほしい。
そうして私は、旅に出る。
『…すまないな、姫』
背を向けた旅に出る我が娘の背に小さく謝罪を口にする。
あの子が自分の役に立とうと頑張っていたことは充分承知していた。
人斬りなんて生粋の医者体質の姫には辛かっただろう。…苦悩させていたのも、わかっていた。
あの子は血は繋がっていなくとも私の娘に変わりはない。
ーーーだから、死なせたくなかった。
これからどんどん戦いは厳しくなっていく。
今あの子を死なせるわけにはいかない。未来あるーーー可愛い私の娘。
だから、生きてくれ。
たとえ、辛くとも。
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