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ーーー姫


「…っ!?」




ばっと勢いよく後ろを振り返るが誰もいなくて、小さく落胆している自分がいた。
……剣心に呼ばれた気がしたんだけど……

そんなはずない、と苦笑して私は再び歩き出す。

私は旅に出て医者として渡り歩いていた。
見たことのない症状を患った人、お金がないからと診てもらえなかった人…そんなたくさんの人と出会ってきた。
山を歩いている途中戦が近々あると聞いたが…もう少し詳しく聞いてみよう。

そう思い、見えてきた甘味屋に立ち寄り、お茶を頼む。
女将さんはどうやらおしゃべり好きなようで少し話しかけただけで色々なことを教えてくれた。




「近々戦があるそうですね」

「そうなのよ!この前終わったばかりだっていうのに…」

「物騒な世の中ですね…」

「本当にねぇ…私実は新撰組を応援しているんだけど、沖田総司様が離脱したって聞いて私もう残念で残念で…」

「…っ!?女将さん今なんて…!」




思わず耳を疑った。

沖田が離脱…?あの剣客が怪我でもしたのだろうか。
いや、彼の強さは私がよく知っているはず。

何故、と眉をひそめると女将さんは「それがねぇ、」とため息を一つ。




「沖田様はご病気らしいんだ」

「病気…?でも、」




つい最近まで呑気に笑っていたのに……




「噂によると不治の病だとか。お可哀想に…まだお若いのにねぇ」

「……っ、」




もういてもたってもいられなくて、私は立ち上がっていた。

ご馳走様でした、と早口で告げてお金を置く。
急に出発しようとする私に女将さんは驚いていたが、気をつけてねー!と私を見送った。


ーーー沖田。

不治の病だなんて…それで勝手に死のうなんて、許さない。

まだ、返事をしてないのに。
…戦いも、終わってないのに。




「死ぬなんて、絶対許さないからっ…」




走り出した体は京都に戻る。

…ただ、一人の人に会いたくて。


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