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斎藤との再会後、抜刀斉の噂が次第に消えていった。
どうやら偽者が捕まったらしいけど……
やっぱり剣心には会うことができなかった。

斎藤は東京に剣心がいる、と言っていた。
私を焚き付ける嘘だったのか…いや、そんなつまらない嘘をつくような人間じゃないはず。

…やっぱりただ単に私が会う運命じゃないってことか。

そう納得しながら患者さんの家に向かう。

あの家は意外と遠いんだよね、なんて思いながら歩みを進めていると、



ーーードンッ!




「わっ…と、大丈夫?」

「ってーな!どこ見て歩いてんだよ!」

「悪かったね、少年。考え事をしてて」




どうやら前をぼぉっとしながら歩きすぎていたらしい。
ぶつかって体格差から転んでいたツンツン頭の少年に手を差し出す。

少し擦りむいてしまっている手に気がつくと、やはり罪悪感。




「擦りむいてる。手当てするよ」

「いらねーよ、そんなの」

「私の仕事なの。放っておけなくてね」




そう言って彼の腕を掴み、治療を施そうとバックをあける。
私が医師とわかったのか少しだけ大人しくなった。

包帯を巻き終わるとよしよし、と頭を撫でて立ち上がる。




「普段からやんちゃしてるみたいだね」

「どういう、」

「剣ダコできてる。今時珍しいからね」

「…!」

「稽古頑張って」




再びよしよし、と頭を撫でてから少年に背を向ける。
少年は何故かぼぉっとしていたようだが、意識をハッとさせて慌てて「お、おい!」と声をかけた。




「名前…!」

「…姫よ。またね、少年」




ふわり、と笑って患者さんの家に再び向かう。

ーーーこれが、彼との出会いのきっかけになるとは思いもよらず……

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