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あれから高荷さんのことが気にかかりながらも、神谷道場へ行くことはなかった。
…剣心がいるのなら、きっと守ってくれるだろうという確信もあった。
最近阿片の患者が減り、情報屋によれば武田観柳は捕まったようだし、大丈夫だろう。
ーーー剣心に会えただけでもよかった、って思えばいいかな。
顔は見れなかったけどね。
どうせ相変わらずの童顔だろう。
くすり、と笑って次の患者さんを呼ぶと「お客さんですよー」と呼ばれた。
誰だろう、と振り向けばとても綺麗な女性が。
「あなたが、桂姫先生…?」
「えぇ。あなたは?」
「私は、高荷恵といいます。小国先生のところで助手をしていまして…これを届けにきました」
「…………」
「…?あの、何か…?」
思わず、凝視してしまっていた。
この人が高荷さんの娘さん…まさか、会えるとは思ってなかった。
でも、この人は私のことを知らないだろう。
そう思ったら私は自然と笑顔を作っていた。
「ごめんなさい、あまりに綺麗な人だったから」
「…あ…そ、そんなこと…」
「小国先生に頼んでいた医療器具ですね。わざわざありがとうございます」
「いえ、大丈夫です。ではこれで…」
「あ、恵さん!今からお時間ってあります?」
「え?」
びっくりしたようにぱっと振り向いた恵さんににっこり笑いかける。
「一緒に甘味屋行きません?」
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