35
夜遅いから、ととりあえずあやめちゃんとすずめちゃんを送り届ける。
恵さんは何か言いたげだったが、何も聞くことはなかった。
二人を送り届けて、剣心と二人きり。
「…何か聞きたいことがありそうね」
「ーーーあぁ」
「なら、私の家に行こう。お茶でも飲みながら」
ふわり、と笑ってゆっくり歩き出すと剣心も隣を歩き出す。
こうやって二人で歩くのは何年ぶりなんだろう……
久しぶりのはずなのに、ついこの間まで一緒にいたみたいに感じる。
「…姫」
「ん?」
「………何だか、久しぶりな気がしないでござる」
「ふふっ!私もそう思ってたよ」
「そうか…」
ふと、穏やかに笑う剣心にこんな顔もできるようになったんだなぁ、としみじみ思う。
私も笑い返すと家の玄関をあけて中に通した。
お茶を淹れるためにお湯を沸かすと剣心のところに湯飲みを準備する。
そんな私を剣心がじっと見つめていることはわかっていたけど私は何も言わず。
どうぞ、と出すと頂くでござる、と言って一口飲んだ。
「お酒の方がよかった?」
「いや…酒を飲んだら姫に会ったことを忘れそうだ」
「そんなにお酒弱くないのに」
「…それくらい、信じられないのでござるよ」
姫にまた会えたことが。
そう切なそうに呟いた剣心に私はまた、何も言うことができなかった。
…剣心も、私を探してくれていたのだろうか。
ーーーなんて、希望までもちそうになる。
「…死んだと思ってた」
「(そういえば沖田もそう言ってた…噂になってた、って)
大丈夫、生きてるよ。…多分、父がそう噂を流すことで私を動きやすくしたかったのかも」
「何故桂さんが…」
「父にね、志士をやめろって言われたの。やはり、女では無理があるって」
「そんなことは、」
「私もないって言ったんだけどね。…父の命だもの。逆らえなかった」
「……けど……本当に生きてて、よかったでござるよ」
穏やかに再び微笑んだ剣心に私も小さく、でもどこか淡く微笑んだ。
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