36
「ずっと東京に?」
「ううん、各地を転々と…ね」
拙者もだ、と返す剣心にそっか、と頷きながら気になることがたくさんあってあまり頭に入ってこない。
ーーー巴さんは一緒じゃないの?
池田屋の事件から私は志士を抜けたから二人がどうなったか聞きそびれていた。
巴さんが一緒ならあの道場に居候なんてしてないだろう。
…じゃあ途中で巴さんとは道を別ち合ったのだろうか。
「…沖田とは、会ったか?」
「………え…あぁ、うん。…あったよ」
「……そうか」
どうして沖田だけ聞かれたのだろう。
新撰組、と言われれば沖田だけじゃなくて斎藤も会ったというのに。
別に疚しいことは何もないのだが、…沖田が私のことを好いていてくれたのは知っている。
その好きが、本気だったことも。
それなのに最期まで私は彼の気持ちに応えることはできなかった。
他に好かれていたことが少し後ろめたいのか。
…好かれていたのは不可抗力だったとしても。
何となく気まずくて、私は思わず先程まで考えていた疑問を口にしてしまっていた。
「そういう剣心は?巴さんは一緒じゃないの?」
「…!…巴、は…」
亡くなったんだ、と古傷が痛むように顔を歪めた剣心に私はそれ以上言うことができなかった。
…巴さんが、亡くなった……
ご病気か何かだろうか。…剣心にとって辛いことだったに違いない。
気まずさから安易に聞いてしまったことを今さらながらに後悔した。
「…そんな顔しないでほしいでござるよ」
「ごめん…」
「…確かに…巴のことは辛かった。
けど…引きずってはないでござる」
だから、そんな顔しないでほしい。
そう苦く微笑んで私の頭を撫でた剣心にもう一度ごめん、と呟いて小さく微笑み返した。
剣心がそれを望むなら、私は後悔するような顔をするべきじゃない。
「…幸せだった?」
巴さんも、…剣心も。
そんな意味を込めて聞くと剣心は少しだけ視線を遠くに向けて「あぁ」と微笑む。
その表情に、やっぱり勝てないな、と漠然と思った。
巴さんは剣心にとって大切な人すぎたんだ。
それが、少しだけ切なく感じた。
(この気持ちが何か考えるまでもなかった)
- 36 -
*前次#
ページ:
back
ALICE+