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「じゃあ姫さんも維新志士だったんですね」

「…途中で辞めたから維新志士と名乗っていいのか微妙なんですけどね」

「何を言うでござる。拙者より先に戦っていたのに」


「「(だから何歳なの!?)」」




そうだけど、と口を尖らせるが剣心は引き下がりそうにない。
まぁそういうことにしておくか、と自分の中で完結させて、弥彦くんの治療を終える。

無理な稽古はダメだよ、と頭を撫でると弥彦くんは「お、おう…」と小さく頷いた。




「あら!何時もだったら『子ども扱いすんな!』って突っぱねるくせに、姫さんには素直なのねー」

「おろ、本当でござるな」

「姫先生には大人しいのねぇ」

「うるせぇ!!」

「ふふ、素直なことはいいことよ、弥彦くん」

「…う…っ」




うるせぇ!と再び叫んだが弥彦くんの顔は真っ赤に染まっていた。
恐らく照れ隠しというやつだろう。
そんな弥彦くんに薫さんと恵さんはにやにやしていたが。




「剣心、あなたが稽古をつけてあげているの?」

「いや、薫殿でござるよ」

「そう……剣心、人斬りは、」

「今は不殺を貫き通しているでござるよ。刀も、」

「…!逆刃…」




きらり、と光る逆刃。
で、ござる、と笑う剣心に姫はそうか、と安心した。

剣心も殺さない道を選んだのだ、と。

それがどこか嬉しくも思い、穏やかな雰囲気である剣心に時間の流れを今更ながら強く感じた。
…こうして、ずっと、守る剣を貫けたら……

そう、強く願う。




「…あ、そろそろお昼ね」

「牛鍋食べに行こうぜ、牛鍋!」

「もーいっつもそれなんだから!」

「ごめんなさい、私はまだお昼の診察があるから」

「そうですか…なら、夜は空いてらっしゃいますか?一緒に食べましょう!あ、恵さんも」

「何よ、その付け足したような言い種は」

「ま、薫じゃなくて剣心が作るんだけどな」

「うるさい!」

「へぇ…剣心が?なら、お邪魔してもいいですか?」

「えぇ、もちろん!」




にっこりと眩しいくらいに笑う薫さん。
その笑顔につられて笑みを浮かべると遠くで私を呼ぶ助手の声が聞こえてくる。

もしかしたら急患かも、と思いながら立ち上がり、小さくみなさんに礼をする。




「夕方、伺いますね」

「はい!」




小さな楽しみができた、と内心思いながら診察に向かう。

かなり楽しみにしていたのか、いつもより笑顔が多い私に「ご機嫌ですね」と患者さんからも言われてしまったのだった。


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