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あれから数日…何もないことに違和感を感じつつ、日々を過ごしていた。
だけど、斎藤から文が来たのだ。…気になるなら、神谷道場に来い、と。

気にならないはずがない。

私は文を握りしめて神谷道場へと向かう。
何もなければいい。そう願いながら。

だけど、薫さんの叫び声が聞こえてきて、私は咄嗟に走り出していた。



「いやあああ!!!」

「…っ剣心!!」



そこでは、斎藤と剣心が死闘を繰り広げていた。
肌を刺すような殺気に、剣心は本気で斎藤を殺そうとしていることがわかる。

だめ…ダメ…!!剣心は、不殺を貫いていた!ここで、それを破らせるわけにはいかない…!!!

護身用にと持ってきていた背中の愛刀を咄嗟に抜くと片手では剣心の刀を止め、片手では斎藤の拳を止めていた。



「…もう…そこまでにしたらどう?二人とも」

「姫…」

「沙梛、止めるな。今イイトコロなんだよ」

「馬鹿ね、これ以上怪我するところを医者として黙ってるわけにはいかないでしょう」

「その通りだ、姫くん。これ以上の争いは不要だ」

「…そうか…斎藤一の真の黒幕はあんたか…元薩摩藩維新志士、明治政府内務卿大久保利通」



突然介入してきた声にスッと気持ちが冷めていくのがわかった。

黒幕、という言葉に自然と私の体は動いていて、いつの間にか大久保利通の喉元に刀を向けていた。
そんな私に大久保も隣にいた警視総監も…ほかのみんなも息を飲んでいる。

…あぁ、そんなに…私の殺気は痛いのかしら。



「黒幕、とはどういうこと?」

「姫くん…」

「返答によっては許せない。ここまでする必要が?」

「…手荒な真似をしてすまなかった。だが、我々にはどうしても緋村くんと…姫くんの力量を知る必要があった。話を、聞いてくれるな」

「…いいでしょう」



刀をゆっくりおろして、一歩離れる。
馬車を用意してあるから、ついて来いと言われ、剣心が「寝ぼけるな、この一件に巻き込まれたのは俺一人では、」と言葉を切り、…何故か自分で顔を殴る。
え、どうしたの?と首を傾げていると、何故か剣心は言いなおし、…薫さんは「元に戻ったんだ、剣心!」と嬉しそうに抱き着いた。

…え?どういうこと?元に戻ったって…?

よくわからないが、薫さんが喜んでいるのでよしとする。
…抱き着いた薫さんに少しだけ胸が痛んだのは、どうしてかわからないが。



「…それにしても…姫が維新志士だったってぇのは本当だったんだな」

「あ…左之助…もう起きて大丈夫なの?」

「まぁな。驚いたぜ、あの殺気」

「…久々に怒りがわいてきて、ね」

「つーか、殺気だって美しさ増すってどういうことでぃ」

「は?」

「お前ぇが美人だって話」

「は!?」

「左之ッ!!」



突然言われた言葉に呆気にとられていると剣心が怒ったように左之助の名前を呼ぶ。
何、なんでそんなに怒ってるの、と首を傾げたが、どうやら気のせいだったらしい。

剣心はごまかすように笑いながら「もう大丈夫でござるか?」と左之助の肩をたたいた。
(その叩いた肩がミシミシという音を立てていたことを知らない)


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