―――その夜。



人斬りの依頼があって姫とオレはターゲットを待っていた。
昼間は明るい色の着物を着ていた彼女は今闇夜に隠れるような紺の袴を纏い、やはり白い結い紐で高く髪を結っている。
凛とした表情は何処までも気高く…綺麗だ。
初めての仕事前にも関わらず、その横顔に魅入っていた。
しばらくその横顔を見ていると料亭から人が出てくる気配がして視線を門に向ける。


―――来た。




「…例の場所へ」

「あぁ」




最低限の会話。
周りの気配に注意しながら自分たちの気配を消し、彼らの先回りをする。
ほろ酔いの彼らは今から起きることなぞ予想だにもしてないだろう。
足音もなく先回りして彼らが前から来るのがわかる。
蝋燭の炎が前から近づき、オレたちの姿を少しだけ照らした。




「だ、誰だっ」

「…誰でもいいでしょう。―――死ぬあなた達には知る必要はないのだから」

「まさかっ…!!」




タンッという小さな音と共に姫の体は消え、目の前の男の体が地に伏す。
鮮やかな斬り方…返り血一つ浴びぬその姿にまた見惚れてしまいそうになる。
刀を抜き出した男達にオレも斬り伏せていき、あっという間に任務は完了した。

ひゅっと血を飛ばし、懐紙で血を拭うと鞘に刀を収める。
姫も刀を収めていて、ふと彼女の横顔を見ると思わずハッと息を飲んでいた。


―――完全なる無表情。


自分の手でその命を奪ったはずなのに、何も感じてないような瞳。
…あの柔らかに笑う彼女と本当に同一人物なのか疑いたくなる。

でも、その横顔は冷たいながらもゾッとするくらい美しかった。




「…沙梛」

「……あ…、剣心…大丈夫?怪我とかしてない?」

「いや、してない」

「そういえば初めての仕事だったね。気持ち悪いとかない?」

「…思ったよりは冷静だ」

「―――そっか」




ふ、と悲しげに小さく笑う姫に何故かぎゅっとその体を抱き締めたくなった。

何故、第一声がオレを労るような言葉だったのだろう。
自分のことを心配せずに、どうして他人の心配なんだ。

長居は危険だ、と言ってすぐに歩き出したその背は何処までも哀しい。

医者である彼女が人の命を奪うことがどれだけ重荷か……
今にも泣きそうな背中を、会って間もないのにとても―――守りたいと思った。

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