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月もない闇夜の日。
私は剣心とは別行動を初めてとっており、今は会談から帰る浪士達の護衛に向かっていた。
月がないから全く明かりがなく、一人でいるといつか闇と同化してしまいそうだな、なんて詰まらないことを考えながら歩く。
だって、実在するはずの私が闇という不確実なものと一緒になるなんてあり得ない。いや、できるはずがない。
どうしてこんなことを考えてしまったのか……もしかしたら、昨日は隣にいた新しい存在、剣心がいないからかもしれない。
「…って、出会って間もない彼に何振り回されてんだか…」
それこそあり得ない、と自嘲の笑みを浮かべると近くから「ぎゃああ!」という叫び声。
―――しまった、まさか…!!
チッと舌打ちしたいのを我慢しながら叫び声のした角まで走っていく。
誰か…いや、同志である浪士達が逃げてくるのが見えてすらり、と刀を抜き去った。
「沙梛さんっ…」
「早く、逃げて」
「ありがとうございます…!」
「待てえええ!」
後ろから追い掛けてくる奴等に軽く目を細める。
新撰組。
壬生の狼と恐れられる準軍事組織集団。―――私達の敵。
追い掛けてきた隊員の3人を斬り伏せるとざわり、と他の隊員達が狼狽する。
…こんな小娘が刀を持ったら、いけない?
ふ、と小さく笑って刀を構え直すと一気に斬り込む。
抵抗するが、そんなの無意味。
5人斬ったところで鋭い殺気が駆け巡り、私の刀を誰かが受け止めていた。
だんだら模様の隊服をふわりと揺らして、私の目の前にいる彼は淡い笑みを浮かべている。
「流石ですね、沙梛さん」
「…沖田総司」
「あぁ、僕の名前を知っててくれたんですね。光栄だなぁ」
キンッと音をたてて刀を弾くとお互いの顔がよく見える。
―――内なる闘気を秘めた瞳に、淡い笑みを浮かべた唇。
少し幼く見えるのは新撰組にいるからなのか。
沖田総司。
新撰組では最年少でありながら、一番隊組長の名を背負う凄腕の剣士。
「予想以上に綺麗な人ですね、沙梛さん」
「…嫌み?」
「やだな、そんなわけないじゃないですか。本心を言ったまでですよ」
「…何だか、変わった人ね」
こんな殺し合いの最中、敵を誉めるなんて。
くすり、と小さく笑うと「あ、そうやって笑うと可愛いですね」と再びよくわからないお世辞。
何だか気が抜けてしまって今は殺す気分ではなくなってしまった。
…まさかこれも作戦の一つだったりして。………いや、まさかね。
ニコニコ笑ってる沖田に軽く笑い返して刀を鞘に収める。
「今日は帰る。…またね、沖田」
「総司って呼んでください」
くるり、と踵を返して歩いていた私は沖田のその言葉に思わず足を止める。
…この人は私を敵と認識しているのだろうか、本当に。
敵でありながら少し可笑しくて小さく笑ってから軽く振り向いて一言。
「気が向いたらね」
今度こそ背を向けて歩き出す。
不思議な人、という沖田への感想を胸に秘めながら。
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