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見慣れないドレス、見慣れない化粧、だけどフィリーだとわかる。
似ている、なんてものじゃない。
フィリーが成長したらあの顔になっている。そう思えるくらいだ。
「フィリー…っ!!」
巻き付く女の腕を振り払って、フィリーへ走り、その腕を掴んでいた。
驚きで目を丸くしたフィリーに、エルヴィン。
「…っ無礼者!その手を離さぬか!」
「…リヴァイ、手を離せ」
怒る老人、戸惑いながらも手を離させようとするエルヴィン、…そして困惑して何も言わないフィリー。
何故何も言わない?オレだとわからないのか?
フィリー、ともう一度名前を呼ぶと、彼女は申し訳なさそうに目を伏せた。
「ごめんなさい…私はエミリオと申します」
「…エミリオ…?」
「失礼、エミリオ嬢。彼はリヴァイ、調査兵団兵士長です」
あなたが…初めまして、私は…と自己紹介するが耳に入ってこなかった。
…人違い……こんなに、似ているのに…?
…いや、馬鹿かオレは。
フィリーは、死んだ。
あの時、オレの目の前で刺されて…商団の人間は全員死んだと聞いた。
他人の空似。
目の前の女は、フィリーに似ているだけの、女なんだ……
「…リヴァイ、さん?」
「リヴァイ」
「…っ」
「…、エミリオ嬢、確か兵団の活動にご興味があるとおっしゃっていましたね」
「え?え、えぇ」
固く拳を握りしめるオレに対して、エルヴィンは自信に満ちた笑みを浮かべる。
…いや、何かを企んだような、笑みを。
「今、兵団で優秀な秘書を探しています。どうでしょう、エミリオ嬢。領主として成功されている手腕を奮ってくださいませんか?」
「…!エルヴィン、」
「…私が、ですか?」
彼女は驚いたように再び目を丸くする。
その隣で老人は「そんなこと、エミリオにさせられぬ」と反対していた。
そうだ、こいつは貴族のお嬢様。兵団で仕事ができるはずない。
何を考えている、エルヴィン。
彼女はしばらく思案しているようだったが、…ふわりと優しく微笑んだ。
「そのお話、お受けします。エルヴィンさん」
決まりですね、と満足そうに笑うエルヴィン。
明日9時にお待ちしてます、という言葉を遠くに聞いたようだった。
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