8


きらびやかな会場、貴重なはずの肉がたくさん並ぶ食卓、うまそうな料理に混じる女たちの香水の匂い。
シルクのドレス、男たちのくだらん自慢話、女たちのつまらん噂話、…その全てが煩わしくてオレは壁の花を決め込む。

あれが人類最強の男か、と好奇の目に晒されるのもうんざりだ。

エルヴィンは貴族とそつなく話しているのを見て、早く終わらないかとため息をついた。



「あら、エミリオ様ではありませんか」

「まぁ珍しい。女の身でありながら領地を管理されているのでしょう?」

「えぇ、しかもその領地の子どもたちと遊んだりするんだとか」

「貴族らしくないですわよねぇ」

「やはりご両親に育てられなかったから、」

「いやねぇ…クスクス…」



醜い。

このご時世、親がいないなんて珍しくない。それを嘲るとは…つまらん。

しかし、面白い貴族女もいるもんだ。平民に混じっているとは。



「これはこれは、レビリオン卿。来ていただいて光栄です。それにエミリオ様もご一緒とは…嬉しい限りですなぁ」

「お招き感謝しますぞ。今日はうちの孫が我が儘を言って申し訳ない」

「いえいえ!ご名声高い麗しのエミリオ様のご要望とあらばいつでも」

「そのように言っていただき、光栄です。ありがとうございます」



よく通る声だと思った。
そして、不快にならない、声。



「調査兵団に興味があるんです。どんな人達が、どんなことを考えているのか。…知りたくて」

「それは光栄です、エミリオ嬢」

「おぉ、エルヴィン君。エミリオ様、彼が調査兵団団長のエルヴィン・スミス君です」

「エミリオ・レビリオンです」

「エルヴィン・スミスです。…お会いできて光栄です。若きやり手の領主だと伺っております」

「いえ、私などまだまだです」

「ご謙遜を」



そこからは兵団の話。
どうやら彼女は本当に兵団に興味があるらしい。
貴族の女が興味をもつのは大抵顔のよさ。それか逞しい体。

…この女もそのテの女だったってことか……



「あら、リヴァイさん。久しぶりね」

「…お久しぶりです」

「最近相手にしてくださらなくて寂しいわ。…今夜、どうかしら?」



するり、と腕を撫でられて鳥肌が立つ。

汚い、触るな、寄るな、そんな言葉が頭の中を占める。
だが、ここで腕を振り払えば、兵団に迷惑がかかる。

…チッ、面倒くせぇな……



「今日は、」


思わず言葉を失った。


ーー…フィリーが、いる…?


- 8 -

*前次#


ページ:


back
ALICE+