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きらびやかな会場、貴重なはずの肉がたくさん並ぶ食卓、うまそうな料理に混じる女たちの香水の匂い。
シルクのドレス、男たちのくだらん自慢話、女たちのつまらん噂話、…その全てが煩わしくてオレは壁の花を決め込む。
あれが人類最強の男か、と好奇の目に晒されるのもうんざりだ。
エルヴィンは貴族とそつなく話しているのを見て、早く終わらないかとため息をついた。
「あら、エミリオ様ではありませんか」
「まぁ珍しい。女の身でありながら領地を管理されているのでしょう?」
「えぇ、しかもその領地の子どもたちと遊んだりするんだとか」
「貴族らしくないですわよねぇ」
「やはりご両親に育てられなかったから、」
「いやねぇ…クスクス…」
醜い。
このご時世、親がいないなんて珍しくない。それを嘲るとは…つまらん。
しかし、面白い貴族女もいるもんだ。平民に混じっているとは。
「これはこれは、レビリオン卿。来ていただいて光栄です。それにエミリオ様もご一緒とは…嬉しい限りですなぁ」
「お招き感謝しますぞ。今日はうちの孫が我が儘を言って申し訳ない」
「いえいえ!ご名声高い麗しのエミリオ様のご要望とあらばいつでも」
「そのように言っていただき、光栄です。ありがとうございます」
よく通る声だと思った。
そして、不快にならない、声。
「調査兵団に興味があるんです。どんな人達が、どんなことを考えているのか。…知りたくて」
「それは光栄です、エミリオ嬢」
「おぉ、エルヴィン君。エミリオ様、彼が調査兵団団長のエルヴィン・スミス君です」
「エミリオ・レビリオンです」
「エルヴィン・スミスです。…お会いできて光栄です。若きやり手の領主だと伺っております」
「いえ、私などまだまだです」
「ご謙遜を」
そこからは兵団の話。
どうやら彼女は本当に兵団に興味があるらしい。
貴族の女が興味をもつのは大抵顔のよさ。それか逞しい体。
…この女もそのテの女だったってことか……
「あら、リヴァイさん。久しぶりね」
「…お久しぶりです」
「最近相手にしてくださらなくて寂しいわ。…今夜、どうかしら?」
するり、と腕を撫でられて鳥肌が立つ。
汚い、触るな、寄るな、そんな言葉が頭の中を占める。
だが、ここで腕を振り払えば、兵団に迷惑がかかる。
…チッ、面倒くせぇな……
「今日は、」
思わず言葉を失った。
ーー…フィリーが、いる…?
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