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エミリオが仕事にも慣れてきた頃、あることが気になっていた。

アイツはこの部屋にいることが多く、自然とオレと茶を飲むことが多くなる。
最初は客用のカップを使っていたが、毎回使うのも馬鹿らしくなってきた。
大体、アイツは客人じゃない。


「…ったく…仕方ねぇ」


そう言いながらも浮かんだのは笑み。
いつも食器を揃える店に入るとカップを漁る。
最初はあれでもない、これでもない、と迷っていたのだが、ふと目についた棚の中に惹き付けられる。

…この花のカップはアイツに合いそうだな。


それを一つ手にとり、…ついでに売っていた甘味も買い(アイツが好きそうだったからな)兵団へ戻る。

買ったカップを置きに行こうと部屋に向かうと、先程まで考えていたエミリオが部屋の前に立っていた。


「あ!リヴァイさん、おかえりなさい」

「どうした?」


ふわり、と笑ったエミリオは、オレの問いかけに困ったように首をかしげた。


「すみません、休暇中とはわかっていたのですが…エルヴィンさんがどうしても今日中に、と」

「…構わん。入れ」


失礼します、と律儀に声をかけながら入ってくる。
荷物は机に置いて、その書類に目を通した。

簡単な書類だったからすぐにサインを書いて「了解だと伝えてくれ」と言って手渡す。
しっかりと頷いたエミリオは再び「休暇中申し訳ありません」と謝り、きびすを返した。



「…待て」

「はい」

「茶でも飲んでいけ」

「…よろしいのですか?」

「あぁ」


では、お言葉に甘えて、と笑ってソファーに座るのを見て、オレは湯を沸かす。
その間に買ったばかりのカップを取り出すと、そのカップを暖めた。

紅茶を淹れて持っていくと、エミリオは少しだけ首を傾げた。


「いつものカップではないのですね」

「…これはお前用だ。いつまでも客人用を使うんじゃねぇ」

「え!?ありがとうございます!私用を用意してくださったんですね…嬉しいです」


大切にします、と大事そうに両手で包み込むようにして持つから。
…柄にもなく、笑みが溢れそうになって、慌てて紅茶で隠したのだった。


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