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その頃…団長室には一人の男性がエルヴィンと対峙していた。


「いつまであの子を関わらせるつもりだい?…エルヴィンくん」

「…レビリオン卿」


穏やかだが、鋭い目線を向ける紳士に、エルヴィンは微かに気を引きしめる。

レビリオン卿は年といえど若き日は権力をほしいままにできた切れ者だ。
豪胆な性格は変わらず、…時には力を行使してくることも厭わないことを知っていた。


ーーだが、エルヴィンは今まで何も調べていなかったわけではない。

以前聞いた妙な噂のこと、…そしてエミリオのことを。



「あの子が自ら調査兵団へ手伝いに行きたいと言うから見守っていたが…今度壁外調査が決まったと聞いてね。
心配なのだよ、肩入れしている人間が死んであの子が傷つかないか…」

「心中お察し致します」

「…だが、少し遅かったようだ。あの子は、君たちの話ばかりする。
壁外調査に行って、傷つくのは明らかだ。…ならば、知らない方が幸せではないか?」


レビリオン卿の言い分はこうだ。


エミリオを調査兵団から手を引かせろ。
壁外調査から帰ってきても、一切関わり合うな。

…そうすれば、被害状況や仲間の死に心を痛めることはない。


「あの子に辛い思いをさせたくないんでね」

「…二の舞にしたくない、の間違いでは?」



エルヴィンの言葉に、レビリオン卿の目が鋭い光が帯びる。

何を言っている、と低く呟かれた言葉にエルヴィンは微かに不敵な笑みを浮かべた。



「いえ…あなたの娘さんが、夫の死を追った…と聞きましたので」

「…っ!!それとあの子は関係ない!!
いいか、あの子をまだこの調査兵団に縛り付けるというのなら資金援助している貴族たちに圧力をかける!それでもあの子を調査兵団にいさせるのなら、」

「わかりました」


エルヴィンの静かな声が響き渡る。

エルヴィンは真っ直ぐに…レビリオン卿を見つめた。



「エミリオには壁外調査当日に辞めてもらいます。
…こちらとしても引き継ぎがあるので、それくらいの猶予はいただきますよ」

「…、まぁよい。エミリオには、」

「ご心配なく」


皮肉るような笑みを浮かべるエルヴィンに、レビリオン卿は微かに眉をひそめる。


「手が回るようになった、と言いましょう」

「…よろしく頼むよ」


では、とレビリオン卿は帽子を被ると部屋から出ていく。
エルヴィンは小さくため息をつくと、顔を伏せてエミリオのことを想った。

…きっと傷つけてしまう、と。


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