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ここしばらく、エルヴィンさんは調査兵団にいない。
…やっぱり壁外調査が近いからだろうか。

書類を分けているとガチャリという音を立ててドアが開く。
そこには険しい顔をしたエルヴィンさんが立っていた。


「おかえりなさい、エルヴィンさん」

「…あぁ、ただいま、エミリオ」

「コーヒー、淹れますね」

「その前に少し話がある」


座ってくれ、とソファーを指差され、どことなく緊張しながらゆっくりソファーに座る。
エルヴィンさんはいつも私の隣に座るのに、今日は何故か私の前に座った。
…その距離が何故か寂しく、どこか他人行儀に思えた。



「…壁外調査が一週間後に決まった」

「…っ、そう…ですか」

「この数週間…エミリオはよくやってくれた。
おかげで速やかに壁外調査の内容が決まり、書類の提出状況は著しくよくなった」

「…ありがとうございます」

「もう、充分だ」

「え…?」

「明日からもう兵団に来なくていい」


はっきりと言われた言葉に、頭がついていけない。

…来なくて、いい?
必要ない、ということ…?


「…っ、で、でもまだハンジさんの実験結果を纏めきれていませんし、リヴァイのスケジュール管理も、」

「副官をつけることになった」

「エルヴィンさんと班長の連絡係が、」

「これからは兵団に費やす時間が作れることになった」

「…っ、わ、私…」


エルヴィンさんの隙のない言葉に、もう何も浮かばなかった。

…本当に…私は、もう、兵団にはいらないの…?

最初はただの興味だった。
巨人という絶対に勝てない敵に果敢に戦う人達。
どんな人達で、どんな思いを抱いているのか…知りたかった。

…だけど、みんなと話すほど、その信念を聞くほど、応援したくなって……

みんなの側にいたいと、思った。


「私は…っここにいたいです…!みなさんを、近くで、応援したい…!秘書でなくても、何かできることを…っ!」

「これ以上、貴族のお嬢様のお遊びに付き合ってられないのですよ」



金づちで殴られたようだった。


…遊び。

エルヴィンさんは間違いなく、そう言った。
そう思われているなんて…私は真剣に向き合っていたはずなのに、

これ以上、もう何も言えなくて、涙が溢れそうになるのを必死に堪えるために拳を握りしめる。

もう…私が何を言っても届かないだろう。



「…わかりました。せめてお仕事に支障が出ないよう、準備させてください」

「その必要もない」

「そんな…」

「…今までありがとう」


温かみのある言葉に、俯きかけていた顔を思わずあげる。

だけど、エルヴィンさんはすでに立ち上がって私に背を向けていた。
これ以上、話すことはないというように。



「…っ、短い間でしたが…ありがとうございました…」


嫌われていてもいい。
自己満足だと言われてもいい。

だけど、最後の挨拶だけは…きちんとしたかった。


私は、深々と頭を下げて…エルヴィンさんの部屋から出ていった。

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