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「どうにかならねぇのか!!」
バンッ!と机を叩きながら立ち上がるリヴァイに重苦しい空気が漂う。
ここは調査兵団会議室。
班長が揃う中ーーといっても亡くなった班長もいるので空席は目立つがーー1つの議題について議論していた。
それは、スパイ容疑のかかったエミリオのことについて。
難癖のはずなのに、論破できないのが悔しかった。
調査兵団の全員がありえないとわかっているのに、証明することができなかった。
「落ち着け、リヴァイ」
「これが落ち着いていられるか!」
「エルヴィンの言う通りだよ。冷静を冷静を欠いたらできることもできない。落ち着きなよ」
「…っ、」
どちらかといえば熱くなりやすいハンジにまで窘められて、リヴァイはぐっと唇を噛む。
どうすればいい…どうすればエミリオを取り戻せる…!!
そうリヴァイが拳を握りしめた時、コンコン、と部屋がノックされる。
誰だ、と鋭くエルヴィンが問いかけると、静かに扉が開く。
そこには、…エミリオの祖父、レビリオン卿が立っていた。
「…もう、よいだろう。エミリオをこちらへ帰してくれないか」
「…、レビリオン卿…、まさか、これは、」
「さぁね。だが、エミリオが貴族の娘として調査兵団から手を引くのであれば、…憲兵も何も言わないのでは?」
リヴァイは今にも殴りかかりそうだった。
ーーそうか、こいつが裏で糸を引いていたのか。
前々からレビリオン卿はエミリオを調査兵団から遠ざけようとしていた。
今回、本気で遠ざけようとしているのだ。
みんなも察したのか、レビリオン卿をぎろりと睨み付ける。
「…エミリオは望まないと思いますが」
「あの子が望もうと望むまいと関係ない。…このままではあの子は拷問されて死ぬ」
「それはそちらも困るのでは?一人しかいない跡取りでしょう」
「困りますな。…だからこそ、君たちにこの条件を飲んでほしい」
頼む。もう…あの子を苦しませないでくれ。
そう深々と頭を下げるレビリオン卿に、誰も何も言えなかった。
…以前はエミリオが望まないと突っぱねた。
今回もそう言いたかった。…けど、…あまりにもレビリオン卿の背中が小さく見えたから。
エルヴィンは小さくため息をついて、リヴァイを見た。
リヴァイもわかっていた。…それが一番エミリオにとって最善の道だということが。
ただ、心が…エミリオと離れることを、受け入れられなかった。
離れたくない。側にいたい。側にいてほしい。
一緒に時を過ごして、思いを共有したい。
だけど、…その気持ちを優先してしまうと、エミリオが傷つく。
だから、
「…っ、わかった。…わかってる」
「…、レビリオン卿…エミリオを…よろしくお願いします」
ありがとう。
そうレビリオン卿は小さく呟いた。
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