30


思い出した。何もかも、思い出した。


私の名前はフィリー。

大商人の娘で…リヴァイの幼馴染。

…何故死にかけたはずの私が貴族の娘として生きていたのかはわからないが……



「…エミリオ・レビリオン」

「…」

「釈放だ。出たまえ」

「…え…?」


突然言われた言葉に呆然としてしまう。

釈放…?あれだけ、拷問してやろうと息巻いていたのに…?



「レビリオン卿が無実だと訴え出た。調査兵団には近づかないことを条件に釈放だ」

「…っ、調査兵団に近づかない…なんて…!そんなの…っ」

「言うことを聞いてくれ、エミリオ」

「…!!お祖父様…」


悲しげに佇む祖父…いや、偽者の祖父に今にも問いただしてしまいそうだった。

あなたは誰だ。
私の何なのだ。
祖父じゃない。なのに何故祖父だと偽る!?

だが、今は隣に憲兵がいる。
ここで声を荒げるのは得策ではない。

ぐっと我慢して、彼を見上げる。



「どうして…ここに…」

「お前を助けるためだ。…さぁ、出てきなさい」

「…、わかりました…後で、お話があります」

「あぁ、いくらでも聞こう」



頷いた彼を見てから私は牢獄から出る。
その間、私は黙って彼の後をついていくと、馬車に乗せられる。

…屋敷に帰るとおばあ様と呼んでいた人は「あぁよかった…!」と涙ぐみながら私を抱き締めた。
記憶のないときなら「ご心配おかけしてごめんなさい」と言うところだが、何も言うことはできない。

そんな私を部屋で休ませようとする彼女に断りをいれ、彼に視線を向けた。


「お話があります」

「…茶でも飲もう」


彼に連れられて二人っきりで庭に行く。
人払いをすると、優雅にカップを傾ける彼を真っ直ぐ見つめた。



「…記憶が、戻ったのか?」

「…お気づきでしたか」

「あぁ、お前の目が明らかに違っていたからな」

「では、お答えください。…私は、フィリーです。何故、エミリオだと嘘をつかれたのですか」


核心をついた質問に、彼は黙って私を見つめた。
…そして、一つ息をつくと、それについては答えられぬ、と言った。

そんな一言で納得できるわけがない私は思わず立ち上がっていた。


「…っ、何故です!?何故答えられないのですか!?
私は、フィリーです!ただの商人の娘です…!貴族ではありません!」

「わかっておる。…だが、そのことを明かせば、調査兵団を危険に晒すことになるぞ」

「…っ、どういうことです?」


自分で考えよ、と言って彼は立ち上がる。
まだ話は、と言いかけたが、彼はこれ以上話すことはない、と言って立ち去ってしまった。

…私のことを追及すれば、調査兵団が危ない…?
一体どうして?何を隠しているの?私は…っ黙っているしかないの…?


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