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記憶が戻ってから、私は屋敷にいることが少なくなった。
…どうしても、気まずく感じてしまって。
はぁ、と無意識にため息をつくと、いつも遊んでくれる子供達は「大丈夫ー?」と気を使ってくれる。
…あぁ、この子たちにこんな顔させちゃだめだ。
安心して過ごせるようにすることが、私の役割なのだから。
何でもないよ、と笑って、夕日に目を細める。
あぁ暗くなってしまう、とみんなにさよならを告げる。
また明日遊ぼう!という言葉に手を振りながら街へと向かった。
…調査兵団のみんなは元気にしているだろうか。
あれから調査兵団に行くことを禁じられ、情報は何一つ入ってこない。
作戦に失敗し、しばらくは調査に行けないだろうと町の人は言っていたけれど……
「おい!何してくれるんだ!!」
「ご、ごめんなさい!!」
突然聞こえてきた怒鳴り声と泣きそうな声。
よく見てみれば、大人が小さな子どもに声を荒げている。
どうしたのだろう、と眉をひそめていると、どうやら子どもが大人にぶつかって服を汚してしまったらしい。
ごめんなさい、と何度も必死に謝る子どもに対して、大人の方は怒鳴るばかり。
あれではあまりにも理不尽だ。
「あの、」
「あぁ!?何だよ!!」
「この子、こんなに謝っているじゃないですか。許してあげてはどうです?わざとではなさそうですし」
「何言ってんだ!!この服めちゃくちゃ高かったんだぞ!!」
指された服は確かに高級そうなスーツだ。
しかし、滑らかな感触や見た目の艶はそこまでない。
…商人の娘として生まれ、貴族として育った身だ。
見る目はあるつもりだった。どう見てもそこまで高くない。
「…見るところによると、シルクではないですよね。そこまで高いとは思いませんが」
「…っ、何だと!?関係のない女がでしゃばりやがって!!!」
あ、しまった。
プライドを傷つけてしまった。
と、後悔しても遅い。
男は私に拳を振り上げ、思いっきり殴ろうとしていた。
…まともに殴られたら痣どころじゃないだろうな、なんてぼんやり考えながら目を瞑った。
が、衝撃はいつまでたっても訪れない。
そっと目を開けてみるとーー信じられない光景に目を見開いた。
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