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「レディース & ジェントルマン!お待たせいたしました!今夜も素晴らしい商品を取り揃えておりますよ!
さらに!今宵は特別でございます。…きっと、ご満足いただける商品と思います」
にやり、と気持ち悪い笑みを浮かべる司会者に開場にいる客も嫌な笑みを浮かべている。あぁなんて気持ちが悪い。
最初の商品です、という言葉が響き渡ると人身売買のオークションが始まる。
美少女、美少年、筋肉質の男、娼婦…大人から子供まで様々だった。
みんな…商品として出ていた人間はみんな、死んだ目をしていた。…諦めた目をしていた。
なのに、座っている人間はみんな笑っている。これは、世界の縮図。この世は弱肉強食なのだから。
だけど、それも終わり。
こんな非人道的なこと…いや、僕にとって胸くそ悪い空間、ぶっ壊してやるだけだ。
「さあさあ、いよいよお待ちかね!本日の目玉商品です!!」
ガラガラとカートで運ばれてきたのは鳥籠型の牢屋。赤いカバーがかけられていて、中は見えない。
「美しい容姿はもちろん、医者としても活躍!奴隷にするもよし、人質にするもよし、生け贄にするもよし!かの有名なボンゴレファミリーボスの妹君だぁ!!」
「………ッ!?」
バサリ!という音とともに、カバーが取り外され籠の中が現れる。
その中には両手両足に鎖をつけられて、倒れこんでいるセリアがいた。
何であの子があんなところに…っ!!
僕の怒りに反してセリアのオークションが始まる。
5000万から6000、7000とどんどんあがっていく。
ふざけるな、セリアに値段なんかつけられるはすがない。
一億のコールが上がった瞬間、堪らず立ち上がっていた。
「お客様、おいくらですか!?」
「…関係ないね」
「は?今なんと、」
「ここで全員殺すから」
くるり、と手錠を回し、立っていたボディガードに飛ばす。
その瞬間、離れる首と体に観客たちが悲鳴をあげて一斉に逃げていく。
隣にいたあの女も顔を真っ青にして一目散に出ていった。
…別に観客に用はない。今回の任務は人身売買をしているこのファミリーの壊滅だ。
向かってくる兵士たちを一気に倒していく。…周りなんて見えていなかった。
「待て、これ以上暴れるならこの女の命はない!」
…周りが見えていなさすぎた。珍しく、血がのぼっていたんだ。
冷たい拳銃がセリアの頭に押し付けられている姿が目に入る。
セリアはいつの間にか目を覚ましていたのか、体を震わせながらも目だけで訴えてくる。
大丈夫。私は大丈夫だから、任務を、成功させてください。
この子は覚悟してるんだ。…自分が犠牲になることを。
自分がもし死んだとしても任務が成功し、僕や兄であるジョットのうまくいくことを望んでいる。
―――そんなこと、させるか。
絶対に助ける。僕の命に代えても、絶対に。
だって、彼女は、僕にとって、
「ま、待て!待てと言っているのが聞こえないのか!?」
「撃ちなよ」
「…!?」
「君が撃つ前に、僕が君を殺すけどね」
コツリ、コツリ、と僕は一歩ずつ男に近づいていく。
その男はあからさまに顔を恐怖に歪ませ、だんだん銃を震わせていた。
来るな、こいつがどうなってもいいのか!?
そう叫ぶ男がついに、緊張の糸を切らせたのか唸り声をあげて銃の引き金を引こうとした。
――パンッ!!
銃弾を弾き飛ばすと同時に男の首が体から離れていく。
血がセリアに飛び散り、セリアの綺麗な体を汚してしまう。
…あぁ、彼女には、似合わない。
そっと近寄ってみればセリアの体の震えが見て取れる。
「怖い?――僕が」
“………”
ふるふる、と弱弱しくセリアの頭が否定のために横に振られる。
でも、その震える体が教えてくれている。…僕が、怖いことを。
セリアの前で人殺しをしたことはなかった。怖がらせたくなったから。
いくらジョットの妹でも、ジョットは彼女を前線で使うことはなかった。
彼女が現場に出るときは仲間が傷ついたとき…つまり、戦いが終わった後だ。
それに、誰よりも人が傷つくのを嫌がる彼女……
だから、セリアの前で人殺しはしたくなかった。――きっと、彼女が僕を幻滅するから。
あぁ、でも、もう…だめかな。
セリアの肩に優しく僕の上着をかけてあげる。
本当はその肩に触れたかったけど…ぎゅっと手を握りしめて、その手をゆっくりおろした。
「ここで目を瞑って待ってて。…すぐ、終わるから」
セリアに背を向けて、何個もの手錠を取り出す。
歩き出そうとしたが、くいっと何かに服を引っ張られる感触。――セリアが僕の服を掴んでいた。
きっと泣きそうな顔をしているんだろう。…これ以上、人を傷つけてほしくない、と。
その目を見たらきっと躊躇ってしまう。人を殺すことを。
そして、彼女を傷つけてしまう。
僕は振り返ることなくその手を優しく振りほどき、今度こそ歩みを進める。
僕はもう、振り返らなかった。
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