heart



気持ちがいい空気を胸いっぱいに吸い込んで、気分が少しだけ軽くなる。

アラウディさんのことを考えると胸が苦しくて、きっと、知らないうちに落ち込んでいたのだと思う。
お兄様に「気分転換に街に出たらどうだ?」と勧められて「あぁ、心配をかけていたのだ」と気づいた。
お兄様の言葉に甘えて久しぶりに街に出たが、優しい街の人の声に触れて少しだけ落ち込んでいた心が軽くなっていったのがわかった。



「あら〜セリアちゃん!今日はお散歩かい?」

“こくり”

「このリンゴ持っていきなさいよー!おいしいわよー!」

“ありがとう”



これはジョットくんにね、とリンゴを二つ渡される。
真っ赤に熟れたリンゴは甘酸っぱい匂いがして、とてもおいしそうだ。

後でお兄様に渡さないと、と考えながら歩いていると突然私の前に黒い車が勢いよく止まる。
え、と驚く暇もなく、車のドアが開き、中から人が出てきて、



「セリア!!」



ぎゅっと抱きしめられていた。

その温もりと声は間違えるはずがない。…アラウディ、さん。
どうして、ここに…ずっと、避けられていたのに……それに、どうしてそんなに心配そうに私を呼ぶの?
わからないことはたくさんあるけど、アラウディさんに会えたことが嬉しくて、ぎゅっと抱き返す。
息切れしているアラウディさんはよほど焦っていたことがわかる。



「よかった…っ無事で…!」

「(無事…?)」

「君が攫われたと聞いて…っいてもたってもいれなくて、」

「(攫われた…?)」

「どこか、怪我はない?酷いことされたとか、」

“待って、アラウディさん。私…攫われても、何もされていませんよ…?”

「え…?」

“今日はお兄様に気分転換に外に出たらどうか、と言われて…”

「……、……嵌められた…」

“え…?”



何故か深くため息をついて、アラウディさんは額に手を当てて俯く。
どうやら少しだけ落ち込んでいるようで、珍しくアラウディさんは「覚えてろ…」と低く呟いた。

…察するに…どうやらお兄様はアラウディさんに私が攫われたと嘘をついたのだろう。
それでアラウディさんは心配して探してくれたのだ。
気まずくなっていたはずの、私のために…こんなに慌てて、走って……

そう考えたら胸が少しだけきゅうと音を立てた。

未だに俯いているアラウディさんの袖を軽く引っ張るとアラウディさんはゆるゆると顔をあげてくれる。
恥ずかしいのか顔を少しだけ赤くしているアラウディさんに軽く微笑みかけた。



“嬉しいです。心配してくれてありがとうございます”

「…まぁ、君が無事でよかったよ」



私の言葉にアラウディさんは少しだけ諦めたように笑うと、いつものように背筋を伸ばして私から視線を外す。

「とりあえず屋敷まで送るよ。行こう」とすぐに背を向けるアラウディさんに直感が働く。
…アラウディさんは、また、私に壁を作るつもりだ。

せっかくアラウディさんに会えたのに。…アラウディさんに、嫌われていないってわかったのに。
こんなところでまたさよならするなんて、嫌だ。絶対に、後悔したくない。

待って、という意味を込めて再び袖を強く握りしめるとアラウディさんは足を止めて、驚いたように私を振り返った。



「どうしたの?」

“私…ずっと、アラウディさんに会いたかったです”

「………」

“避けるのは、私があなたを傷つけたからですか?”

「…っ、違う…そうじゃないんだ。君は、医療に携わる人間だ。いくらボンゴレプリーモの妹だからといっても…人の命を救う君が、僕のような人の命を奪う人間の傍にいちゃいけないんだ」

“誰が、そう決めたのですか?”

「……それは、」

“私は…っ傷ついても、傷つけられても…!アラウディさんの傍にいたいです…!”

「…っ」

“傷つけて、ごめんなさい…!確かに、人を傷つけるのは、怖い…傷つくのを、見るのも…でも、それ以上に、アラウディさんに会えないことの方が、もっと、辛い…!”

「…!」

“あなたの優しさを裏切っていることも、我儘を言っているのもわかっています…!でも…また、会ってくれませんか…?”



泣きそうになるのを堪えながら、アラウディさんに伝えたいことを必死に書きなぐる。

そして、気づいた。


―――私、アラウディさんのこと、好きなんだ……

こんなにも胸が苦しくて、会いたいと願う人はほかにいない。会えると嬉しくて、会えないと辛くて…傷つけてしまったことをこんなにも後悔して、心配してもらえて、心が震えるほど、嬉しかった。

全部全部…アラウディさんだから……

縋るようにアラウディさんを見つめているとアラウディさんは再びぎゅっと私を抱きしめてくれる。



「…ねぇ、それって、期待、していいの…?」

「(え…)」

「君も、僕と同じ気持ちだって」

「(…!!)」



囁かれた言葉にじんわりと堪えていた涙が零れ落ちる。
こくり、と頷くとぎゅっと抱きしめる力が強くなって、アラウディさんのふわふわの金髪が私の頬をくすぐった。



「好きだ、セリア…」



囁かれた言葉の、なんて幸せなこと。

私も、と心の中で呟いて、…返事の代わりにぎゅっとアラウディさんの背中に縋りついたのだった。

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