Eye
“そういえばご用事の途中ではありませんでしたか?”
そうセリアに言われて始めてジョットに呼ばれていたことを思い出した。
あれから色々と話しているうちに本来の用事を忘れてしまっていたようだ。
…まぁ、あっちから呼び出したんだし、僕は行くとも言ってないから問題ないと思うけど。
引き止めて申し訳ない、とばかりに心配そうに見上げてくるセリアに安心するように「大丈夫だよ」と言いながら小さく微笑む。
「約束した時間とかなかったし」
“…兄にご用事があったのですか?”
「うん、呼び出されてね」
“では、一緒に執務室へ行きませんか?
私も兄に用事があったので”
にっこり、と笑うセリアにうん、と頷くと医療機器などが入ったバックを持ち上げて行きましょう、と目で促される。
セリアと一緒に歩いていると歩きながら字を書くことができないから自然と無言になる。
僕は特に気にする方ではないが、セリアと話せないのは少し残念に思った。
…手話とか覚えようかな。任務とかにも使えそうだし。
そう一人決意していればいつの間にか執務室についていたようでセリアが執務室の扉を少し不規則な動きで叩く。
あまり詳しくはないが…確かモールス信号だった気がする。
確かあれだと“セリア”…自分の名前を言ったのか。
どうぞ、と中からジョットの声が聞こえてセリアはゆっくり扉を開ける。
「セリア…とアラウディ。初めて見る組み合わせだな」
“さっき会ったの”
「なるほどな。アラウディ、よく来てくれたな」
「君が呼び出したからでしょ」
何時ものようにソファーにどさり、と座って足を組むとセリアが隣の部屋に消えていく。
それを目で追って見えなくなると、ジョットに視線を戻した。
「…で、用件は」
「ある男の動向を知りたい。頼めるか?」
「さぁね、その人物次第だよ」
無表情に言い放つとジョットは引き出しから一枚の書類を出して僕に手渡す。
内容を見てみれば…何だか叩けば埃が出そうな男。
市民を騙して薬漬けにしている可能性がある、と書かれていて思わず眉を顰めた。
「頼めるか、アラウディ」
真っ直ぐ見つめるジョットのオレンジの瞳には力強い光が燈っていた。
−−−そう、この目だ。
僕が群れるのを嫌うのに、彼に手助けしたくなる理由は。
いつもは優しげな目をしているのに、自分の許せないことになるとどこまでも強い人間の目をする。
そこが気に入って彼を手助けしたりする。
全く…ただの小動物かと思えばそうじゃないなんて、興味の絶えない男だ。
「後日また連絡するよ」
「…恩に着る」
にやり、と笑ってそう返事すればジョットは穏やかに微笑む。
書類を懐に収めるとセリアが香りのいい紅茶を淹れて持ってきてくれた。
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