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「恭弥……」



美瑠の声……

そっと目をあけると美瑠が少し遠くで座り込んでいる。
周りには何もなくて、たった二人だけの空間だけど、僕と美瑠との間には小さな距離があった。
手を伸ばせば届くか、届かないかの…そんな距離。

(そんな距離が、ひどくもどかしい)



「恭弥……」



どうしてそんな悲しそうな声で僕の名前を呼ぶの…?
僕はここにいるよ?
今すぐにでも立って、歩いて、美瑠を抱き締めてあげたい…っ

でも僕の体は金縛りにあったように一歩も動けなくて。
美瑠、と呼びかけても聞こえていないようだった。

ぽたりと、美瑠の目から涙がこぼれ落ちる。


――――泣かないで。

そう言いたいのに、声も出すことができなくて、伝わらない。



「恭弥…っ!」



お願いだから、泣かないで。そんな辛そうに僕の名前を呼ばないで。
僕はここにいるから…美瑠の側にいるから……

ねぇ…もう泣かないで…?

そう心の中では言っているのに、僕の口は開くこともなく、体も動くことはない。



「美瑠」



二人だけの空間だったはずが、横から音もなく表れたアイツ。

六道…骸……っ!!

僕の体は一歩も動くことができないのに、あいつは何の躊躇いもなく動き出す。
そのことが悔しくてギリリと自分の手を強く握りしめた。

なんであいつが美瑠の側にいけるの…っ



「泣かないでください」



何で僕が言いたいことを…こいつが言うわけ?

僕が真っ先に美瑠に言いたいことを…っ



「貴女には、笑っててほしいんです」



六道が美瑠の頬に流れる涙をすくい上げる。

……っ触るな!
美瑠に触っていいのは僕だけだっ!!

そう叫んでいるのに、二人には聞こえてない。
まるで僕の存在がないように……



「お願いだから…笑ってください……」



すっと自然に美瑠の頬に手を添えて六道の顔が美瑠に近づく。

やめろ…っ…やめろ――っ!!



「……っ!!」



自分の意識が浮かび上がり、勢いよく体を起こす。

夢…?でも、何だ……この、現実味のある…嫌な感じ……

纏わりつくような不快感に思わず眉を顰めていた。



「美瑠…」



そう呟いて、僕の意識は再び闇の中。

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