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あらかじめ聞いておいた『応接室』の場所を目指して歩き出す。
それが私のこれからを左右する『彼』の根城だったなんて知らずに……
4 僕の初恋、なんて言ったら咬み殺す。
「じゃ、下がっていいよ」
「はっ、失礼します」
直角九十度といっても誤差はないほどきっちりと頭をさげていくフランスパン、基草壁を見送り、僕は今日の遅刻者リストとブラックリストを見比べながら咬み殺す標的を見定める。
いつもなら高揚感を少しだけ味わいながら目を通す資料でも今日はなんだかそんな気分にならなかった。
理由は自分でもよく、わかってる。
自分でもバカじゃないかって思うけど、バカらしく思えないこの理由。
僕らしくもないし、こんなの草食動物と同レベルじゃないかって思うけど、でも。
頭に入らない草食動物リストを机の上に置いてゆったりとした僕お気に入りの椅子に背を任せる。
……そろそろ、かな。
もしあの教師がうまく言ってくれているなら、だけど。
(まぁ言ってなかったとしてもその教師を咬み殺して直接会いに行くだけだ)
応接室にかかった大きめの時計を見つめて、そう思う。
すると案の定というべきか、待ち人の気配が応接室の外の近くに感じた。
僕はふ、と息を一つだけ吐いてそっと目を瞑る。
―――ぴたりと、その気配はここの部屋の前で、止まった。
コンコン、と控えめなノック音が聞こえてきて僕はゆっくり目を開け、どうぞ、とだけ声をかける。
僕からドアを開けてあげればよかった、と少しだけ後悔しながら。
「失礼します」
少しだけ震えているような声音。
でもどこか一本のしっかりとした芯の通った声に緩やかな笑みを浮かべる。
やっぱり彼女は昨日思った通り、見た目にそぐわず『強い人間』の部類に入る人間だと確信して。
彼女は恐る恐る、といったようにゆっくり入ってきて、物珍しそうに部屋を見渡す。
そしてピタリ、と。
全ての動きをとめて、一直線に僕に焦点を合わせた。
「あっ…!」
「やぁ、待ってたよ」
「貴方……さっき、の…」
僕が風紀委員長だとは思わなかったみたいで、彼女は驚きで目を見張る。
その仕草は昨日のことと今日のこと、両方覚えているようなもので。
少しの安堵と嬉しさがこみ上げたけどそれを表に出さないようにわざとからかうような表情をした。
「吃驚してるみたいだね?」
「は、い…あのっ、昨日と、さっきはありがとうございました!」
助かりました、とふわりと笑う彼女。
…なんて、顔で笑うんだろうね、本当に……
強い人間、の部類に入るはずの子なのに……
それを感じさせない、いや、寧ろ小動物のような可愛らしい印象を与える。
そしてそんな笑顔に…(心を奪われた、なんて、ね)
ぺこり、と小さく頭を下げる姿はやっぱり小動物みたいで可愛らしい。
その愛らしさに思わず僕まで柔らかく微笑んでしまった。
「―――っ……?(あ、れ…?何、今の…)」
「別に、群れてたから咬み殺しただけだよ。ところで、自己紹介もなし?」
まぁ、知ってるけど。
その言葉は飲み下して相手の自己紹介を促す。
実は昨日転入生が来るって聞いて、もしかしたら、と思って教師を脅し―――いや、無理矢理合意させて資料を見せてもらったからね。
そんなことも知らず、彼女は少しだけ居住まいを正して「彼方美瑠」という名前を口にした。
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