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誰も病室にいなくなって急に静かになる。
そういえば、いつも私の周りには誰かがいてくれた。
教室では、ツナ達。イタリアではおじい様やディーノ達。そして、応接室では、恭弥。
だから、一人でいるのは本当に久しぶり……

日も暮れてきて、夕日の赤日が病室を照らす。
その赤さがとても綺麗で、思わず見とれる。



「夕日が綺麗だね」

「(うん……、…え?)」


誰もいないはずの病室に響いた声に、驚いて思わずその声のした方に顔を向ける。
そこには、いつの間にか座っていた恭弥が。

何でいるの?ていうかいつ入ってきたの?
(気配なかったよ!?)

その驚きが恭弥にも伝わったのか、恭弥は私の様子にくすり、と笑う。



「そんなにびっくりしなくてもいいでしょ?」

「(いや、びっくりするよ。誰でも)」

「美瑠?」

「(あ、そっか…恭弥にはまだ言ってないんだもんね…)」



恭弥を傷つけたくないと言えなかったこと。
でも…ちゃんと言おうと決めた。

きゅっと拳を握りしめて、恭弥を真っ直ぐ見つめる。
何も言わなかった私に恭弥は不思議そうにしていたけど、私の覚悟を決めた表情を見て、さらに首を傾げた。



「美瑠?」

「……」



携帯電話を取り出して、さらさらと自分の思いを打ち込んでいく。
突然私が携帯を打ち出したことに、恭弥はさらに首を傾げていたけど、私は画面を差し出した。



「(恭弥、落ち着いて聞いてね。私、今声がでないの)」

「え……どういう、こと?」



信じられない、とばかりに恭弥は目を丸くする。

「(黒曜のときに、ね)」と苦く笑うと恭弥の顔が苦渋でゆがめられる。
その表情にあぁやっぱり、傷つけてしまった、と胸が苦しくなる。
…でも、言ったことに後悔はない。秘密にしていた方が、恭弥を傷つけるって、わかったから。



「本当に…出ないの?」

「(うん。治るか、わかんない)」



残酷な答えだけど、本当のことだから、ちゃんと伝える。
恭弥はすごく戸惑っていて、…すごく、悲しげ。

…ごめんね、恭弥。そんな顔をさせてしまって。



「美瑠は、不安じゃ、ないの?」

「(…不安じゃないって言ったら嘘になるけどね。
でも、自分のしたことに後悔してないから)」



安心させるようににこり、と笑いかけると恭弥は私をまぶしげに目を細める。
そして、肩の力が抜けたように恭弥は表情を緩めた。



「そう…強いね、美瑠は」

「(そうかな?)」



少し首を傾げると恭弥は優しく私を抱きしめてくれる。

この前の抱きしめ方とは違う。
目が覚めた時に、抱き締められたときは、ここにいるよって、存在を確かめるような力強い抱き締め方だった。

今の抱き締めは…ふんわりと、包み込まれるような…そんな、限りない愛がこもってるの。
…、…自分で言って恥ずかしかったよ……

でも、やっぱり人の温もりは温かい…、…ううん。恭弥だから温かいんだよね。

(恭弥の体温が、すごく好き)



「君の声が聴けないのは…正直、さびしい。
でも、美瑠が傍にいないのに比べたら、声なんて気にしないよ。
…美瑠は、側にいてくれるだけで、いいんだ」

「(恭弥…)」

「美瑠…」



好きだよ、と言われているように私の名前を呼んでくれる。
その声に心が温かくなると同時に、返事できないことが、こんなにももどかしい。

ねぇ恭弥……この気持ちをどうやって表せばいいの?
この温かくて、甘くて…少し切ない、気持ちを。

…そうだ。
言葉で言えないなら…態度で示せばいいんだよね。

そっと恭弥から体を離して、優しく恭弥の唇にキスした。



「…っ、」



初めて、私からしたキス。
だからか、恭弥はびっくりしていたけど、頬は少しだけ赤い。
…それ以上に、私の方が真っ赤だと思うけど。

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