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美瑠はさっそくつけてくれるみたいで安全ピンを外してブレザーの袖につけようとする。
けど、どうにも片手じゃうまくいかないみたいで悪戦苦闘中。
あれ?と何度もあれ?を繰り返している姿にクスリ、と笑う。
「美瑠、かしてごらん」
「あっ…!」
美瑠から安全ピンをやんわりと受け取り、曲がらないように注意しつつピンを通した。
少し形を整えてあげると美瑠がまじまじと腕章を見つめている。
そして少しだけ悔しそうに「上手…」と呟いた。
もう、その言葉に笑みを止めることなんてできない。
クスクス、と笑い声を漏らすと美瑠の視線が僕に向かい、少し首を傾げる。
「恭弥…?」
「クスッ……僕が上手いのは慣れだよ。
美瑠も慣れればうまくつけれるようになる」
「…!聞こえてた、の……」
美瑠はどうやら僕が聞こえてなかったと思ってたようだ。
恥ずかしい、と呟きながら顔を真っ赤にして俯く美瑠にクスリ、と笑ってぽんぽんっとその頭を撫でてあげる。
なんでだろうね?
僕が自ら他人に触れようとするなんて……不思議な気分。
今まで自分から他人に触れたいなんて思ったこと、ないのに。
でもそれが嫌、だと思わないことの方がもっと不思議。
…これも僕の感情だから、不快には思わないけどね。
美瑠は少し顔をあげて小さく苦笑を漏らした。
「恭弥…つけてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。うん、すごく似合ってるよ」
そっと手を離すと光を反射して光る風紀の腕章。
それを眩しそうに目を細めて美瑠はそっとその文字をなぞる。
まるでそれは「大切にする」という意志表現のようで。
美瑠なら風紀もこの並盛も大切にしてくれる気がした。
「…そろそろ、一限目が始まる頃だね。教室に戻った方がいいんじゃない?」
ほら、と時計を指させば時計はすでに一限が始まる時間の三分前を指していた。
その時計を見て美瑠は焦ったように行かなきゃ!とスカートの裾を翻す。
慌ただしい子、とクスリ、と笑うとぱっと美瑠が不意に振り返った。
もしかして笑ったのがわかっちゃったかな?
「恭弥、また来るね!」
ニコッと笑ってまた慌ててドアから出ていく。
僕は何も言わず、そのドアを見つめるだけ。
……いや、正確には言わないんじゃなくて、言えなかった、か。
『また来るね!』
そんな一言だけなのに、こんなに嬉しい、なんて。
また来てくれるとは思わなかったから。
もちろん風紀に入ったならそれなりに来るかもしれないけど、美瑠からそう言ってくれるとは思わなかった。
最初はただ、強い人間だと思って興味が湧いたからここに呼び出した。
…もしかしたら、それさえも無意識のうちに……
兎に角、美瑠のことはただ面白い子、としか思ってなかった。
でも、今日改めてこうやって話して……僕の中で何かが変わったんだ。
何か、っていうのは僕自身ちゃんと気づいているけれどまだ、認めない。
簡単に認めてしまえば今までの僕がすぐに崩れてしまうような気がするから。
それでも、ね……
僕はふいに弛む口元を押さえて僕専用の椅子に座って背もたれにもたれかかる。
この、どうしようもない、愛しさは抑えられないみたいだ。
「まだ、言わないよ」
まだ、この気持ちはいわないから。
君が僕に振り向いてくれるまで、僕の中で認められるまで。
この擽ったい、温かな気持ちは、心の中に仕舞っておくとするよ。
……たまに溢れちゃうかもしれないけど、ね?
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