さっきまでの強い力なんてなかったみたいに優しく抱き締めてくれた。
びっくりするよりも、羞恥よりも、何よりも先に何故か安心感でいっぱいになる。

今日の私はなんだか、変……
逢ったばっかりの人に安心するなんて……今までなかったのに。

少し頭を肩に預けるとごめん、とくぐもった声が聞こえた。




「君を、泣かせるつもりじゃなかったんだ」

「うん…」

「ただ、……」




ふと、恭弥の言葉が切れる。
恭弥?と軽く見上げると何でもないよ、と苦笑された。
その苦笑はなんだか少し寂しそうで、哀しそうで。

(すごく、私まで苦しくなって、)

ぎゅっと自分から抱きつくと美瑠…?と恭弥の戸惑ったような声。

う…これ、自分からしておいて私も恥ずかしい……




「…私なら、大丈夫だから。だから……そんなに気にしないで」

「……ありがとう」




恭弥の声はとても柔らかになっていて、スッと苦しさが抜けていく。
ほっと安心して恭弥から体を離そう…としたけど、離れない。
だって恭弥が私の背中に手を回していて、離れないようにしているから。

あ、あの……恭弥?この体制、かなり恥ずかしいんだけど…!




「恭弥……そろそろ離れない…?」

「嫌」




あっさりバッサリ切られた!

自分から抱きついたけど……まさかそのままになるなんて聞いてない。

自分が思っている以上にハグって恥ずかしかったんだ…!

心臓がバクバクとうるさいし、体温は上がりっぱなしだし、何より恥ずかしい。
早く離れないと私は心臓発作で死んじゃうかもしれない。



「恭弥……本当に、お願い」

「…わかったよ」




すごく納得いかなそう……というかしぶしぶと言ったように恭弥は離れてくれた。

はぁ……よかった。
今度から自分から抱きつくなんてチャレンジャーみたいなことはしないようにしよう…!
自分の心臓のためにもね。

ホッと息をつくとそんなにあからさまに安心しなくても、と恭弥に苦笑されてしまった。
そう言われてしまうと少し気まずくて、私は話題を変えようと話題を頭の中で探す。


話題話題話題……あっ、そうだ!




「もうすぐ体育祭だけど、恭弥は出るの?」

「…あぁ。もうそんな時期だね」




ソファーに座る恭弥に倣って私も恭弥の前に座る。
机の上に体育祭の書類があったみたいでその書類を持ち上げた。
そしてサラリとその内容を見通して、興味なさげにその書類を元に戻す。




「僕は出ないよ。群れの中には行きたくないからね」

「恭弥らしいね……あ、私は出るよ!
(こんなまともな体育祭)出るの初めてだからすごく楽しみ」

「そう」




相づちだけだけど恭弥の表情はすごく柔らかくて、私まで自然に微笑んでいた。

どうしてだろうね?
恭弥が笑ってくれると私まで嬉しくなって、心が温かくなっていくの。
ううん、温かくなる……っていうのは少し違う気がする。
胸が、熱くなる、というか……いっぱいになる、かな…?

よくわからないけど、嫌な気持ちでないことは確か。




「……体育祭の日はいるから」

「本当?なら、お弁当作ってこようか?」

「いいの?」




何気なく言った言葉だったけど、恭弥は心底びっくりしているみたい。
恭弥が来てるならお弁当くらい作っていこうと思ったんだけど……そんなに吃驚されるとは思わなかった。


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