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ねぇ、ツナ。あなたはまだ何も知らないけれど、全ては一つの結果に収束しているの。
私はいつだってあなたを信じている。

―――私の命も、未来も、過去の自分も全て…あなたに預けるよ。

だからお願い……もう、あんな風に微笑まないで。





53 始動





医療室に点滴に繋がれた身体を横たわらせた美瑠の側にある椅子に座り、その頭をそっと撫でてやる。

…随分と痩せたな……

なぁ、美瑠…お前に一体何があったんだ?

十年前から来た赤ん坊のオレにはその状況は把握しきることはできない。
唯一十年後の世界を熟知している山本は「ミルフィオーレに連れて行かれた後はわからない」という。

…最初にお前が敵に捕まっていると聞いたときは本気で心配したんだぞ。
姿を見せたかと思えばこんなにボロボロになりやがって……



「…リボーン、」

「…!気がついたか」



掠れた、小さな声が聞こえてきて伏せていた目を美瑠に向ければ、美瑠は薄く目を開いてこちらに淡い微笑を向けていた。

…こんなときでも笑うのか。
無理するな、とばかりに頭をなでれば美瑠は安心したように目を細める。

…聞きてぇことは山のようにある。…が、何故か言葉にすることができねぇ。
多すぎて何から聞きゃあいいのかわかんねぇだけかもな……



「…よかった…」

「何がだ?」

「生きてて、くれて…」

「……、…」

「また会えて、よかった…っ」



くしゃり、と一瞬顔をゆがめて、静かに涙を流し始める美瑠にオレは何も言い返すことができなかった。

…こっちではオレや他のアルコバレーノも、ツナも死んだことになっている。
だから、そんな風に言うんだろうな……

美瑠を泣かせねぇことがオレ自身の誓いだったっていうのに泣かせてどうすんだ。

十年後の自分に内心毒を吐きながら、そっと美瑠の涙をぬぐってやる。

お前には泣き顔が似合わないって昔言ったのにな……
十年経った今も似合わねぇが、その大人っぽさが涙を似合わせるようになった。



「オレは生きてる。…だから泣くんじゃねぇ」

「うんっ…」

「…さらに泣いてどうすんだ」

「ふふ、ごめんね。…ツナたちは?」

「あいつらは……ヒバードを追いかけてった」

「ヒバード、を…?…っじゃあ、恭弥…!」

「あぁ、恐らくここにいる」



ヒバード、という雲雀関連のキーワードを出せば美瑠の表情が明らかに変わる。
ここにいる、つまり並盛に帰ってきている、というニュアンスを含ませれば美瑠はどこか安心したように笑った。

…その微笑にひっかかったのは、間違いなくオレだった。

どうして雲雀が並盛にいるとわかって、そんなに安心した表情をする…?

普通ならあの並盛好きの雲雀がここに帰ってきているといえば「やっぱり」と苦笑するか楽しそうに笑うはず。
安心する、という気持ちは生まれないはずだ。

どういうことだ、と考えたとしてもその答えは全く浮かび上がらない。

直接本人に聞くのが一番だということはわかっているが、…どうにも美瑠に尋問してるみてぇで質問する気になれねぇ。

複雑な気持ちを抱えていればジャンニーニから負傷者が出たという知らせが無線で入る。
恐らくまだ体が疲労に追いついていないのだろう。
再び目を閉じそうな美瑠の頭を撫でて「寝ろ」と優しく声をかければ美瑠はこくり、と頷いて静かに寝息を立て始めた。

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