『プログラム7番一年女子リレーです』

「……!」




放送部のアナウンスに僕の意識が集中する。
確か美瑠がこの前これに出るって嬉しそうに言ってた。
…そう言ったときの美瑠の可愛さなんて言い表せないくらいだよ。
美瑠は運動神経がいいから、きっと足も早いんだろうね。

少し目をこらすとリレーに出る女子達の中にいる美瑠を見つけ出す。
赤いはちまきが美瑠の髪の中で見え隠れして、風が髪と一緒に靡かせた。
その姿だけでもかっこよく僕の目には映る。

…僕にも格好良く映るってことは他の男達の目にもそう映ってるってことか。




『位置について―――』




教師の声に一瞬だけ静かになって、一斉に声援が飛び交う。
美瑠は緊張したような面持ちで第一走目の子を見つめていた。

パンッという銃声…あれは確かに空砲じゃなくて実弾の放たれた音だった。

一体誰だ、銃なんて撃ってる奴。
見る限りでそんな奴は見あたらないってことは…もしかして、赤ん坊かもしれないね。
あの赤ん坊はとても面白いから。

美瑠も気づいているみたいでキョロキョロしている。
…ちらりと見えた美瑠の持っている黒い塊は見なかったことにしようか。

(まさか美瑠、撃ち返そうと思ってたの?)

美瑠の前の子達がどんどん走り出していく。
美瑠はわたっていくバトンを見ながら一生懸命応援していた。




「頑張れー!」




不思議だね……美瑠の声は決して大きくなんてないのに。
この応接室まで美瑠の心地のいい声が聞こえてくる。

目を瞑ってもわかるよ、美瑠の声。
透き通っているようでちゃんと一本の芯の通っている、綺麗な声。

低くもなく、高くない……いや、少し高いかな?

それでも不快に思わないっていうのは贔屓目なのかもしれないね。



「美瑠ちゃん!」




ついに美瑠の番がきたみたいで緊張した美瑠にバトンが繋がる。

その瞬間……誰もが目を奪われた。

さっきまでの緊張なんて一切感じられない堂々とした走り姿。
颯爽と長い髪とハチマキを靡かせて凛とした空気を纏いながら走る。

あれは…美瑠の『強い者』の時の雰囲気だ。
どんな妨害も許さない、絶対的な王者とも呼べる雰囲気……

風のように駆け抜ける姿はとても綺麗で会場全ての視線を釘付けにしている。
そしてぐんぐんと前にいた人間を抜いて―――一位でテープをきっていた。




『きゃああ!かっこいい―――!』




女子の黄色い声。

うるさい……けど、その言葉を否定することなんてできない。
みんながみんな美瑠の周りを囲んできゃーきゃー騒いでいる。
同じチームの女の子達とは抱き合って喜んでいた。
弾けるような笑顔、っていうのはこういう笑顔のことなのかな。




「美瑠ちゃんナイスラン!」

「ありがとう!」




にぱぁっと笑う美瑠を見て僕は自然と穏やかな顔して笑っていた。
心の中の氷が溶けていくような、温かいもの流れて全身を支配していく。
この感情が何かは自分でもわかっているつもり。
でも言葉にするにはまだこそばゆい、というか…自分らしくないというか。

弛む口元を左手で隠して、でも緩やかに美瑠を見つめた。



……気のせい、かな……

美瑠の笑顔が満面の笑顔からどんどん無理した笑顔になっている気がする。
笑っているのに、笑ってない、ような。
僕は目をこらして美瑠の顔色をみるといつもより悪いように思えてくる。
厳しくなっていく視線に僕は無意識に立ち上がっていた。




「(まずい…っ)」

「美瑠ちゃん?……美瑠ちゃん!?」




一瞬だけ美瑠の顔が苦渋に歪み、ぐらりと体が傾く。
ふわり、と美瑠の髪の毛が風を孕み、スローモーションのように美瑠の体は崩れていった。

ぱたり、と地面に倒れた美瑠に周りにいた女子の悲鳴が運動場中に響き渡る。

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