「……っ、美瑠っ!」




頭が判断するより僕の体は早く応接室の窓から飛び出していた。
スタンと着地するのと同時に今までにないくらい走って群れの中に入っていく。
固まっている草食動物達を押しのけて行けば生徒達が恐怖と驚愕の目で僕を見つめた。

そんな目は鬱陶しかったけれど今は焦る頭が美瑠のところに行くことしか考えられない。




「美瑠…っ!」




倒れた美瑠の体を抱き起こして何度も美瑠の名前を呼ぶ。
顔色が分かるように美瑠の髪の毛をそっとかきあげて、ズキリ、と胸が痛んだ。
美瑠の顔は真っ青で、顔色がすごく悪かった。

こんな状態で走っていたなんて…っ気づかなかった僕も僕だ。

ぐっと眉を顰めて優しく美瑠の頬を撫でて、すぐに美瑠の体を抱き上げた。




「どけ、早く」

「は、はいっ!」




あっけにとられた草食動物達を無視して、美瑠に負担がかからないよう運ぶ。
視線が鬱陶しくて鋭い視線を向ければ一斉に目を逸らしていった。
ふん、と鼻を鳴らして運動場を出て医務室へと向かう。

医務室ならちゃんとベッドがあるから、寝かしてあげた方がいいと思って。

医務室のドアを開けると見知らぬ白衣の人が目に入る。

そういえば新しい保険医になったって草壁が報告してたな……

その人は僕に目を向けて、美瑠に目を向けるとまるでやっぱりか、というように苦笑した。




「あーやっぱ倒れたか」

「…やっぱり、ってどういうこと」




何でも知ってるような口調に苛ついて思わず睨む。

……ダメだね、僕も。
彼の方が美瑠のことを知ってる、と思うとこんなにも簡単に感情を乱す。
美瑠とは会ったばかりなのに……僕の方が美瑠のことを知っておきたい、なんて矛盾を思ってしまう。

保険医は肩をすくめてカルテらしきものを取り出した。



「美瑠は低血圧なんだよ。昔から早起きとか苦手だったからな。
ま、そこに寝かせとけ。すぐに目ぇさめるから」




可愛い女の子を横抱きしたままにしておくのか?とからかうようにいわれる。
妙にこの言い方が癇に障ったけれど、このままにしておくのは美瑠に負担がかかるので、大人しくゆっくり起こさないようにベッドに横たわらせてあげた。
近くにあった椅子を引き寄せて美瑠の側に座る。

どうしても、心配で。




「…ねぇ、何で美瑠が倒れることわかってたの?」

「朝ここに来たんだよ。その時に顔色少し悪かったからな」




彼の言葉に自分でもわかるくらい反応してしまった。

朝、ここにきた…?
僕の所にはこなかった、のに…?

彼の口ぶりからして彼は美瑠の知り合い…つまり、……


(辿り着く答えは僕にとって屈辱で、考えたくない答えで)

(…いつか絶対、逆の立場にたってやる)




「(うわーこれくらいで嫉妬しちゃって。ガキだな)
今日はお前の弁当作るために早起きしたんだろ?」

「…何で知って」

「そりゃーオレは恋愛のスペシャリストだからな!
そんくらい見りゃわかる。お前、美瑠に惚れてんだろ」




にやつく保険医を殴ってやりたい衝動に駆られた。

……本当に殴ってやろうか。

そこまで考えたけど隣で寝ている美瑠の寝顔を見て、やめた。
その代わり思いっきり睨んでやるとお前わかりやすいな、と笑われる。

本当にね……こんな反応じゃ肯定したのも同然なのに。

自分でもわかってはいたけど、体は素直みたいで。
無言で視線を逸らして先程よりはよくなった美瑠の顔を見つめた。

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