「(やめた方がいい。美瑠を好きになる奴は、アイツ以外傷つくだけだ。
……って言ってもコイツは聞かないだろうなぁ)」

「…応接室で休ませるよ。じゃあね」

「おーじゃあな」




再び美瑠を抱き上げて医務室を出る。
特に何も言わなかった保険医には変に思ったけど、僕も何も言わず。

途中草壁に美瑠が持ってきてるらしいお弁当を応接室に運ぶよう指示した。

応接室に入ると美瑠を真っ先にソファーに寝かせる。
毛布とかなかったから、一応僕の学ランをかけてあげた。
僕はソファーの縁に座ってじっと改めて美瑠の寝顔を見つめる。

何て言うか……不謹慎だってわかってるけど、可愛い、よね。

そっと美瑠の髪をさらり、と撫でてできるだけ優しく梳く。
すると美瑠は「ん…」と身じろぎしたので僕は手を止めて美瑠、と名前を呼んだ。




「美瑠…」

「あれ…?恭弥?」




まだぼぉっとしてるみたいでぱちぱち、と目を瞬かせる。
その様子に大丈夫さが伺えて無意識にホッとしていた。
そんな僕の心情も知らない美瑠は次第に焦点があってきたみたいでゆっくりと起きあがった。

キョロキョロしてたけど応接室だと気づいたのか力が抜けていく。




「目が覚めた?」

「うん……ごめんね、迷惑かけちゃって…」

「これくらい、迷惑だなんて思わないよ」




立ち上がろうとした美瑠をやんわりと抑えて座ってて、とソファーに座らせた。
ちょっと待っててね、と言って用意していた紅茶を持ってくる。

少し冷めちゃってるけれど……熱すぎるよりはいいよね。
香りはまだ損なわれてないみたいで美瑠は紅茶の香りに顔をあげた。



「これ飲んだら落ち着くよ」

「ありがとう」




緩やかな笑みを浮かべてカップを持ち上げた美瑠を見届けて美瑠の前に座る。
琥珀色の液体が白いカップの中で揺れて、こくり、と一口飲めば時間の経った紅茶特有の渋みが口いっぱいに広がった。
その渋みに少し眉を顰めて美瑠を見やったが美瑠は何ともなさげに飲んでいる。

……美瑠は渋いって思わなかった…?
そうだったら僕の味覚が子どもみたいだ。

少し面白くなくてむすっとしていると美瑠の顔が本当に小さく歪む。
普通だったらわからない、細い眉がよった瞬間。

でもじっと見つめていた僕にはわかる、変化。
思わず嬉しさと可笑しさにクスッと笑うと美瑠が不思議そうな顔をして首を傾げる。




「恭弥…?」

「…ごめん。紅茶、渋かったね」

「あっ…!」




しまった、とばかりに美瑠が大きく目を見開く。
そして少しだけバツが悪そうに苦笑して「ごめん、顔に出てた?」と言う。
少しだけね、と小さく笑うと返せば美瑠は再びごめん、と謝った。

そんなに謝らなくてもいいのに。僕も苦いって思ったから。

僕はソファーから立ち上がって備え付けられている砂糖とミルクを取り出す。
基本的にストレートで飲む僕はあまり使わないけど……
こんな時だけは「一応いるときがあるかもしれませんから」といって置いててくれた草壁に感謝。

はい、とテーブルの上に置くとありがとうございます、と丁寧なお礼が返ってきた。




「時間が経ちすぎてたみたいだね」

「熱さは丁度いいんだけど…」




ぽちょん、と白い角砂糖が紅茶の中に消えていく。
その後少しだけミルクが入るとすぐにミルクティーの柔らかい茶色が広がった。
そんな紅茶を少しだけ飲んで、美瑠は小さく笑みをこぼす。

よかった。渋みは中和されたみたいだね。

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