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初めて会った瞬間、強烈に惹かれた。

何が、どう、なんて理屈なんかじゃなかった。――ただ、ほしい、と思った。





――数年前


マーレリングを手に入れて、数日たった。僕に課されたゲーム。楽しまないと損でしょ?

世界を征服するために、戦争でも起こそうかなと考えながらイタリアの町を歩いていた。
…この町は珍しい。みんながみんな幸せそうに笑っている。裏路地に入っても裏の人間は一人もいない。

何故かはすぐにわかった。ここは、ボンゴレが守っている町だから。

つまんない町、だと思うし、すごい町だな、とも思う。こんなに平和な町は滅多にない。
ぼんやりとしながら歩いていると後ろで「美瑠ちゃんじゃないか!」と嬉しそうな声が聞こえてくる。



「久しぶりだねぇ!元気だったかい?」

「えぇ、アルディーナさん。今日も元気ですね!」

「美瑠ちゃん!今日採れたてのオレンジだよ!持っていきなよ!」

「いいんですか?ありがとう!…わぁ、いい匂い」

「美瑠ちゃん、昨日この子ったらね、」



わいわいとみんなが「美瑠」と呼ばれる女の子の傍に寄ってそれぞれ好きなことを話しかけている。
みんなから慕われているその女の子が気になって、そっと近寄ってその子の姿が目に入る。

――トクリ、と心臓が音を立てて、その子から目が離せなくなった。

柔らかな笑み、優しげな雰囲気、何もかも抱擁してくれそうな声。

その視線を、声を、笑顔を、体を、…心を、欲しいと思った。僕にも向けてほしい。占領、したい。
強烈な独占欲が心の中を占めていく。



「美瑠ちゃんー!これ、ボンゴレにも持っていってくれよー!」

「わぁ、こんなに!?ありがとうございます!みんなも喜びます」

「いつもボスにもお世話になってるからね」



ありがとう、とまたお礼を言って「美瑠ちゃん」は歩きだし、僕の横を通り過ぎていく。

この瞬間から僕は美瑠ちゃんを手に入れるための行動を起こしていった。


ある世界ではボンゴレを壊滅させて、美瑠ちゃんを監禁した。
ある世界では誘拐して、ある世界では無理矢理その体を奪った。

でも、どの世界の美瑠ちゃんも僕の物にはなってくれなかった。



「私は、誰のものでもない」



そう言って。

ある世界の美瑠ちゃんはボンゴレが壊滅したと聞いて自ら命を絶った。
ある世界の美瑠ちゃんは誘拐してもボンゴレが助けてくれると信じ続け、自分で逃げ出すこともあった。
ある世界の美瑠ちゃんは無理矢理体を奪われたショックで心を壊してしまった。
他にも誰かをかばって命を落としたり、戦って大けがをして、昏睡状態のこともあった。

どの世界の美瑠ちゃんも僕に笑顔を向けることも、心を許すことも、包み込んでくれることもなかった。


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