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「恭弥、怪我はない?」

「草食動物に負けるほど弱くないよ」




棒倒しも終わり、僕と美瑠は応接室に帰ってきていた。
棒倒しの結果はもちろん僕の勝ち。

最初はなかなか楽しませてくれたけど……拍子抜けしてしまうほど最後はあっけなかった。
まさか自滅、だなんてつまらない終わり方するなんてね……

外では棒倒しの後の乱闘騒ぎの片付けをしている。
僕が命じたんだけど…あんなに運動場を破壊されるなんてたまったものじゃないよ。
はぁ、と溜息をつくと美瑠が心配そうに見つめてくる。

あぁ、心配させちゃったかな。




「疲れちゃった?」

「まぁね。…そろそろ帰ろうか」

「うん、そうだね」




美瑠は広げていたお弁当を片付けて鞄を持ち上げた。
空はすっかり夕日に染まっていて、応接室全体を真っ赤に染め上げる。
僕は秋風の入る窓を閉めて応接室の鍵を取り出した。

チャリッという鍵が触れ合う音がすると先に外に出ていた美瑠が顔を出す。




「お待たせ」

「ううん」




行こう、と促して二人して歩き出す。
コツン、コツン、と二人分の足音が重なって学校の廊下に響き渡った。

ふと美瑠の抱えているお弁当を見て、重要なことに気づく。

お弁当…作ってくれたのにお礼、言ってない。
美味しかったし、嬉しかったのに…ね。




「美瑠、」

「なに?恭弥」

「…ありがとう」

「え…?」




ピタッと美瑠の足が止まって僕を見つめる。

その瞳はとてもまっすぐで、綺麗で。
逸らしたくて、逸らしたくなくて。

そのまま美瑠の瞳を見つめて、僕は緩やかな笑みを浮かべた。




「ありがとう。お弁当、作ってくれて。すごく美味しかった」

「……!」




美瑠は目を丸くさせて僕を見つめている。
カァァッと真っ赤に染まっていく頬に僕は少し固まってしまった。

だって……こんな反応、初めてで。
いつもならどういたしまして、ってはにかみながら笑うのに。

こんな……まるで僕がすき、みたいな。

まじまじと美瑠を見つめていると美瑠は一歩だけ前に歩いて、顔が見えなくなる。
それでも美瑠の背中を見つめていると、




「どういたしまして!」




上擦ったような声でそう返してくれた。

きっと美瑠なりに照れてるんだろうね……
クスッと小さく笑って美瑠の隣に並ぶ。

やっぱり美瑠の頬が赤く染まっていて、心のどこかが温かくなった。




「美瑠、照れてる?」

「て、照れてないよっ?」

「ふぅん…顔、赤いけど?」

「……っ、夕日のせいだよ!」




クスクス、とありきたりの理由に思わず笑みが漏れた。

そんな誤魔化し方って…今どきあんまりしないよね。
どこか古典的な誤魔化し方が可愛くて。

そう、と笑みを含みながらそれ以上追求せず、再びゆっくり歩き出す。

それを合図に美瑠は何も言わずただ俯いてその隣を歩いていた。


―――真っ赤な夕日が僕と美瑠を包みながら。

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