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「恭弥、コーヒーできたよ」
「……ねぇ、この人誰?」
金髪の彼が一緒に映っている写真を持ち上げて美瑠に見せると、コーヒーを乗せていたお盆を机の上に乗せて懐かしそうに口元を弛める。
その目は限りなく優しくて、懐かしげ、で。
(やめろ、と、心のどこかで僕じゃない僕が、叫ぶ)
「この人は私のお兄ちゃんみたいな人……ディーノだよ。
さっき私が過保護なお兄ちゃんっていった人」
「…この人じゃないの?」
「彼は……、…」
小さく、本当に小さく、哀しそうに笑って。
何も言わずに哀しそうな視線のまま写真をじっと見つめていた。
その表情に違和感を覚えて、心に何かが溜まり始める。
ドロドロとした…否、モヤモヤとした、今まで知らない感情が。
(それが何か、わかっていた…けど、)
「…帰る」
「恭弥?」
淹れたばかりのコーヒーのいい香りが漂う中、僕は美瑠に背を向ける。
―――自分でも、なんて心の狭い男だって思う。
自分で自分を咬み殺してやりたいほど、不甲斐ない。
わかってる。…けど、今は美瑠の笑顔を見ているのは、辛すぎた。
見たことない笑顔。…僕が引き出せなかった、笑顔。
ディーノとかいう男の話をする時はとても幸せそうで。
写真に映っていた兄じゃない彼を思い出すときの表情は、切なくて。
ねぇ、その表情、そいつらにも見せたことあるの?
僕には、どんな笑顔を浮かべてる…?
(美瑠の全てが知りたい、なんて)
(…ただの、傲慢だ)
どうしたの?と酷く戸惑ったように僕に問いかける美瑠を無視して靴を履き、ドアを開ける。
未だにコーヒーの香りは、消えない。
「またね」
苛つくくらいいい香りを残すコーヒーの香りを断ち切るかのようにバタンっとドアを閉めた。
勢いよく閉めすぎて、虚しく閉じた音が響き渡る。
ドアを閉めるその間際、僕の目に入ったのは―――
美瑠の、泣き出しそうな顔だった。
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