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時間は過ぎて夕日が差し込む放課後になってしまった。
みんなそれぞれ部活に行ったり、遊びに行ったりと人が少なくなっていく。

…結局、今日は一度も恭弥と会わなかった。
いつもなら見かけたり、一度は会ったりしていたのに。

はぁ、と人知れず溜息をついてバックを持ち上げるとツナが駆け寄ってくる。




「ごめん、美瑠ちゃん!先に帰ってて!
先生にプリントを纏めるの手伝えって言われちゃったんだ」

「そっか…手伝おうか?」

「ううん、大丈夫!ありがとう」

「じゃあ、先に帰るね?」

「うん。バイバイ、また明日ね!」

「また明日ね!」




ばいばい、と手を振ってツナに背を向け、バックを持ち直す。

今日に限って一人で帰ることになって…更にネガティブになりそうになる思考を無理矢理やめた。

本当…私ってダメだなぁ。下を向いちゃいけないって思ってるのに。
今だけでも上を向こう、と夕日で真っ赤になった空を見上げると、




「彼方美瑠さん」




呼ばれた、自分の名前。

知らない女の人の声に私は首を傾げながら振り向く。
…と、目に映るのは一人ではなく知らない女の人3,4人。

知らない人達だけど、わかることは並中の生徒だということだけ。
見るからに上級生で、雰囲気は限りなく敵意に満ちている。

ひしひしと伝わってくる、私を嫌う気持ち。

何となく次の行動が予測できてしまって、眉に皺が寄るのがわかった。



「ちょっといいかしら?」

「…はい」




背を向けて誰も来ないような細い路地に入っていく。
やっぱり、と予想していた事態になって気分が更に沈んだ。

くるり、と振り向く呼び止めた彼女達が一斉に敵意の篭もった視線を向けてくる。


怖い。


そう直感的に感じて思わず一歩退いていた。

殺気はあまり怖いと思わないけど…女性の、嫉妬の目は…怖い……




「あなた、雲雀さんとどういう関係?」

「…恭弥とは……」

「…っ、恭弥、ね……下の名前を呼び捨てする仲なんだ…」

「っ!貴女、ちょっと可愛いからって調子乗りすぎなのよ!」

「そうよ!山本くんと獄寺くんとも仲良くしてるくせに!」

「彼女じゃないくせに一緒にいないでよ!」




最初の彼女の言葉をきっかけに周りにいた人達全員が一斉に罵り始める。

自分も可愛いと思ってるんじゃないの?
男がみんな自分のこと好きだと思ってるわけ?

そんな言葉達が降りかかって、私は口を閉ざしてしまった。

心の中ではそんなことない、と必死に否定していても、届くはずなく。
ただ黙り込む私に苛々するのか一人が「何とか言ったら!?」とバンッと肩を強く押した。

その反動で体がよろめき、背中に壁がつく感触。

その勢いのまま顔をあげれば、憎しみに満ちた目、目、目……

その目をぼうっと半ば他人事のように見つめて、頭の片隅で思った。
この人達は本当に恭弥や隼人、武のことが好きなんだなぁって。

彼女達の言い分は私も同意できた。

もし…私に好きな人がいて、その人の隣に彼女でもない人がいたら…?
……きっと私はその人のことを恨んでしまう。狡いって。

だからこの人達も一緒なんだ。彼女でもない私が側にいるのが、嫌。

好きな人の隣には……自分がいたいって、思ってるんだ。




「言い訳もしないの!?」

「ねぇ、何とか言ったら!?」

「雲雀さんに今後一切近づかないって約束しなさいよっ!」

「…ッ!」




いわれた言葉に、ハッとした。


恭弥に今後一切近づかない……?

あの優しい時間を共有することは、もう許されない…?


思い出すのは今まで恭弥と一緒にいた時間。
…とても短い期間だったけど、思い出すだけでもたくさん…たくさん、楽しい時間が詰まっていた。

みんなに怖がられているけど本当はとても優しくて不器用な人。
いつも無表情だけど、穏やかな顔や笑った顔もできて……

私が知っている恭弥はほんの一部かもしれないけど、…けど……




「…っ、できません……」

「…っ!何でよ!?貴女の周りにはたくさん他の男がいるでしょ!?

何で……っ、何で雲雀さんなのよ!?
雲雀さんは…孤高の人なの、誰も隣に並んではいけない人なの!

貴女みたいな人を隣に置くなんて、考えられないッ」




そう目に涙を溜めて言った彼女に、胸が痛む。

彼女は本気で恭弥のことが好きなんだ……
彼女の目が…否、全てが恭弥のことを大切に思ってる。

そんな彼女に……嘘は、つけない。

私も、ちゃんと声に出して気持ちを言わないといけない。

そうじゃないと、彼女にとても失礼だ。

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