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「何か、あった…?」

「…美瑠、…っ」

「苦しそうだよ…?」




まるで僕の心に触れるように手を差しのべるから。
この温もりを、離したくないって強く思った。

真っ直ぐとした美瑠の瞳に吸い込まれるように抱き締めれば美瑠の手が軽く背中に回される。
次第に僕の胸に頭を預けてくれるようになり、静かに僕の言葉を待ってくれた。




「…金髪の彼と…キス、した…?」

「え?…あ、ディーノこと?」

「…うん」




彼が“ディーノ”って名前なのかはわからないけど。
きっと美瑠の中で該当する人間が“ディーノ”という人だけだからその名前が出たと思ったから肯定する。

すると美瑠は不思議そうに首を傾げながらキス?と聞き返した。




「頬に、してた…」

「挨拶のこと?」

「……あいさつ?」

「イタリアではお別れするときお互いの頬にキスしたりするんだけど…」




日本ではしないの?と不思議そうに尋ねる美瑠に、脱力。

美瑠は日本人の血が入っているからあまり帰国子女であることを意識したこと無かったけど……
これが所謂、カルチャーショック、っていうものなのかな。
日本人なら挨拶にキス、なんてありえない。…抱き締めるくらいが関の山だ。

そうなんだ、と呟くと「でもね、」と言いながら小さく美瑠が照れたのを感じて今度は僕が首を傾げる。




「唇にキスされたのは恭弥が初めてだよ」

「……え…」




とっさに美瑠の横顔を見れば、顔を赤くしながらはにかむから本当だということを悟る。

つまり…僕が美瑠のファーストキスを奪っちゃった、っていうこと、で……




「…ごめん、美瑠」

「どうして謝るの?」

「……それは…」




嫉妬に任せてキスした、なんて。
美瑠のことは大切な女の子だって思っているのに…そんな理由で大切なファーストキスを奪ったなんて言えないし、言いたくない。

…美瑠のこととなると、僕もただの男だったってわけか……

今更ながらばつが悪くなって照れ隠しのように美瑠の体を優しく包み込んだ。

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