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「…黒い薔薇、ね」




彼女が消えて、僕はそう呟いて少しだけ足を進める。
僕の足元には黒い薔薇。
彼女がわざと落としていった、もの。
僕はその刺の処理もされていない新鮮な薔薇を拾い上げた。
ふわり、と薔薇特有の甘い匂いが鼻孔を擽り、どこか甘美で妖艶な様に笑みを浮かべる。

まるで彼女の生き写しだ……

どこまでも優雅で、どこか踏み込めない美しさを持っている。
不思議で…僕が惹き込まれてしまいそうだった。
毒花…いや、そんなものじゃない。
もっと神聖で、もっと気高いもの。
甘い甘い蜜を持ちながら、誰にも触れさせない…一体何で例えればいい?
否、例えることなんてできないんだ。

彼女には…そんな雰囲気がある。




「……クスッ…」




どうしてだろうね?
手が届かないものほど、欲しがってしまうのと一緒なのかな?

―――君が欲しい、なんて。

誰にも触れさせない、そんな君がもし僕に心を許してくれたら?
僕にだけ笑いかけ、僕にだけ触れさせ、僕だけをその瞳に映してくれたら?
そう考えるだけでゾクリ、と鳥肌が立つ。
この感情が何かは知らない。
恋、なんて甘いものじゃない…いわばそう。
踏み込んではいけないところに踏み込んでしまう、そんな冒険心のような、好奇心。




「面白いね、空翠徠」




そっと黒い薔薇に唇を寄せ、彼女が口づけたところに口づける。
そしてぐしゃり、とその薔薇を手で潰してその場に投げ捨てた。




黒い蝶は黒い薔薇に恋をする
(それは同族愛か、それとも、)

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