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真っ赤な真っ赤な、情熱的で、鮮明な、アカ。
まるで薔薇が人になったのか、と錯覚させられそうだった。
黒いベールで顔を隠して、コツリ、コツリ、とヒール音も高らかに入ってくる、彼女。
顔がわからなくても、わかる。…彼女は、翠徠だ。
「お誕生日おめでとうございます、デーチモ様」
ふわり、と赤いフリルが空気を孕みながら翠徠は洗練された動きでお辞儀する。
―――正直、見惚れた。
ぼぉっと見つめているとリボーンがみんなにわからないようにガンッと椅子を蹴ってきた。
その衝撃でやっとオレの意識は返ってきて、「ありがとう…」と辛うじて返せた。
リボーンに感謝する気はないけど、今だけはちょっとだけ助かった。
……あのままだったらずっと見つめていたと思う。
翠徠は頭をスッとあげて、オレを真っ直ぐ見つめる。
(ドクリ、と心臓が暴れ、出す)
「お祝いにフラメンコをご披露致します」
彼女が手を挙げるとどこからか男達二人が楽器を持って現れる。
翠徠が黙って目を瞑れば、ざわめいていた会場がシンッと初めて静かになった。
―――飲まれているんだ。
翠徠のピンッと糸を張ったような緊張感に。
静かになった瞬間、翠徠は目を開けてタンッと足音を鳴らす。
それを合図に男達は一斉に演奏を始めると、翠徠は音楽に合わせて踊り出した。
くるり、くるり、ふわり。
そんな音が聞こえてきそうな程翠徠は華麗に踊り続ける。
タンッと鳴った刹那、翠徠自ら黒いベールを外してそれを羽のように操りはじめた。
(翠徠の美しさに、衝撃が、走る)
誰もがその美しさに見惚れ、男達は熱い視線を送る。女は嫉妬の視線を送っていた。
タンタンッという最後の足音と共に翠徠の踊りは終わる。
誰もが口を開けなかったが、翠徠がお辞儀をした瞬間…盛大な拍手が巻き起こった。
あちらこちらから聞こえてくる賞讃。美しい、という言葉。
オレも惜しみない拍手を送り、彼女を優しく見つめる。
「素晴らしかったよ、翠徠」
「…ありがとうございます」
「文句なしの100点だ。何か願いを叶えるよ」
そういう約束だしね、と笑って椅子から立ち上がり彼女の前まで歩いていく。
翠徠はゆっくり頭をあげてオレを見上げた。(真っ直ぐな瞳に、心臓が跳ねた)
彼女の黒い瞳から何の感情も読みとれない。…もちろん、心の声も。
何がほしい?地位?名誉?お金?女性だから…宝石とか?
そう問えば翠徠は不快感を表すように顔を歪めたけど、一瞬だけで。
すぐに元の表情に戻って首を振ればシャン、という金属が擦れる音がした。
「いえ…望みはありません」
「遠慮しなくていいんだよ?」
「……では、」
翠徠は少しオレに近づいて、キスする時の距離まで近づき、耳元まで唇を運ぶ。
キスするかと思ったけど…違ったことに少しだけ落胆。
一瞬だけ見えた翠徠は赤い唇を妖艶につり上げて、不敵な笑みを浮かべていた。
(真っ赤なアカが、目から離れない)
「あなたの地位をくださる?」
「……!」
小さな、囁くような声。決して他の人間には聞こえない、声。
まさかそれを言われるとは思わなくて思わず驚きを隠すことを忘れた。
別に権力に執着しようとは思わない。…この座も、さっさと譲ってもいい。
でも今は大切な仲間が戦っているから…だから、この座を誰にも渡してない。
顔をずらせば彼女が無表情で顔を離していた。
―――その表情が、何故か悔しくて。
オレは逆に翠徠の腕を引いてわざと抱き締め、今度はオレが耳元に口を寄せた。
「君が望むのなら、」
「………」
「オレの地位も権力も財産も名誉も、全部、あげる」
そう囁いたけど翠徠は何も言わず、掴んでいた手に手を重ねて、ゆっくり腕を離される。
そして再び小さくお辞儀をしてヒール音も高らかにホールを出ていった。
どこまでも気高く美しい君
(そんなもの、いらないわ。そう呟いた)
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