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「貴方、名前は?貴方は私の名前は知ってるのに私は知らないなんて不公平じゃない?」

「そうだね、確かにそうかも。
じゃあ、自己紹介。僕はミルフィオーレファミリーボス、白蘭だよ。
よろしくね♪空家当主、neve nera…空翠徠チャン?」

「……ミルフィオーレ…、貴方が?」

「そう♪信じられないかな?」

「…寧ろ納得したわ。貴方…何を企んでるの?」




その笑顔の裏に一体どんなとんでもないことを隠してるのかしら?


そう問いかければ白蘭はニコッと楽しそうな、でも怪しい笑みを浮かべる。

その笑顔は肯定の意。…掴めない、男。
この人はある意味綱吉と同じ人種だわ。絶対に自分の気持ちを相手に悟られない、天才。

それに郁織がいるのも気になる。
確か郁織は私を殺す、といった。…なのに生きている。

一体どういうことなのか。さっさと答えて貰いましょう。




「そんなに警戒しなくていいよ。僕は殺す気、ないしね♪」

「ちょっと待って白蘭、約束が違うわ!コイツは殺すんでしょう!?」




……なるほどね、あのパーティー会場に入れるのはボンゴレの人間のみ。
死炎印のついた複製不可能の招待状がないとあの会場には出入りできなかった。
だからボンゴレにとっては敵(…といっても差し支えない)である白蘭は入れるはずがない。

郁織の招待状は雲雀さん宛てだし、郁織に招待状を作る権力もない。
だから郁織を利用して白蘭はボンゴレになにかする、もしくは私の家の首を掴もうとしてるってわけか。

どちらにしろ、私に有益なことは何一つもない。

憎しみに歪む郁織の顔を見ながら冷静に逃げ道を考えていた。
郁織はどうしても私を殺したいらしく白蘭に怒鳴りつけている。


―――その刹那。


私は自分の心臓を掴まれているような、凍り付くような殺気を感じた。

この私が怖い、なんて感じる殺気……その殺気の根源は、白蘭。

ニコ、と笑みを浮かべているにも関わらず私が身をすくめるような殺気を放つ白蘭に初めて恐怖を感じる。

この男は、危険だ。自分が気に入らないと思ったら何の躊躇いもなく何でも破壊するような人間。
一個のファミリーも、一国も、肉親さえ、も、…最悪、この地球も。

その殺気を感じたのか郁織はビクリ、と体を震わせて怯え始めた。

逃げろ……逃げなさい、郁織。早く…!




「君の役目はもう終わってるんだよ?」

「っ……」

「だから、もうイラナイ。消えて?」

「…!」

「…っ、待って白蘭!」




恐怖で染まった郁織に銃をつきつけた瞬間、叫ぶ私。

何で…何で止める必要があるの…?

郁織は私の憎い敵だったはずなのに。
愚かにもまだ“愛”を信じていた私の心を踏みにじった人のはずなのに。
郁織が死のうが傷つこうが関係もない、のに。…まだ私の中に微かに残っている、良心の呵責というものか。

どうでもいいけど、止めたことが信じられなくて思わず顔を歪めた。
すると白蘭の体がこちらを向き、…銃をその場に捨てた。

そしてそのまま私に近づき―――片足だけベッドについてそっと私の頬に手を滑らす。
その手に、ゾッとした。…余りにも、冷たすぎて。
リボーンも冷たいけど……白蘭の手は氷のように――死人のように――冷たかった。
口元には笑みを浮かばせているのに、目の奥には狂気を眠らせているのがわかる。




「翠徠チャンが望むなら」

「……っ、」

「ふふ、そんな顔しないでよ♪…そそるけど、さ」




ぞわり、とした感触が耳を舐め上げた。それが白蘭の舌だと気付くのは難しくなく。
恐怖で震えそうになる体を必死で両腕で押さえつける。
初対面の人間にこんなことをされて…しかもあの殺気まで出せる人物にされて、いくら私でも怖くて。
殺し屋として生きてきた私にも女特有の恐怖が残っていたんだ、と焦った頭が判断する。
怯える私がそんなに嬉しいのか、白蘭は笑みを深めて私をベッドに押し倒した。



蜘蛛の糸に絡まった黒い蝶
(藻掻くたび、さらに絡みつく糸に…逃れることは、できない)

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