10年後の君
「姫さんの居場所はとうに調べてます」
ただ、恭さんのその言葉を…ずっと待ってました。
そう言った哲は胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
僕はそれを受け取り、目を通す。
哲は一礼して静かに下がると襖に手をかけてふと立ち止まった。
「姫さんは待っていますよ」
〜メーデー、メーデー〜
「姫!コンサートお疲れ!」
「ありがとう」
既にもう馴れ親しんだ流暢なフランス語が耳を擽る。
ウィンクを飛ばして褒めてくれる、こっちでできた友達――金髪にブルーアイの美人な彼女――に笑みを浮かべてそうフランス語で返した。
彼女の手には腕いっぱいの色とりどりの花束。
彼女曰く私のファンがくれたらしい。
姫に渡してほしいって頼まれたのよ、と。
私はその花束を見て、一本の小さなガーベラを抜き取る。
「私はこれだけで充分よ。あとはあなたが受け取って」
「何言ってるの姫!この赤い薔薇なんて凄く素敵なのに!」
勿体ないわ、と言われて私は苦笑するしかなかった。
彼女にわけを説明する気はない。
いくら友達でも…この約束だけは、私の宝物にしたいから。
「私には薔薇なんて素敵な花、似合わないわ。
あなたのような可愛い子に貰われた方が花達も喜ぶしね」
「もう…あなたはいつもそうね」
有り難く受け取っておくわ、と肩を竦めて彼女は私の楽屋から出て行った。
私はピンクのガーベラをコップにさして鏡を見つめる。
―――10年経った今でも約束を覚えているなんて…随分と、私は一途。
鏡に映る私はこんなにも変わったのに。
…未だに好き、なんて…ただ未練がましいだけなのかもしれない。
―――雲雀、さん
その名前を呼んだだけなのに今もドキッとしてしまう。
“コンサートの時薔薇の花100本持ってきてくださいね”
ねぇ…貴方は覚えていますか?あの約束……
…もう、約束どころか私のことも忘れているかもしれませんね。
勝手に留学したのに貴方のことを待っている私は、矛盾してる。
わかっていても…貴方のことを忘れられない。
「姫、ビッグニュースよ!」
「…どうしたの?」
突然慌てて入ってきた彼女に首を傾げる。
すると彼女はとんでもないことを言い放った。
―――今度ある世界でもトップクラスのコンサートで貴女がソロに選ばれたわ!
驚きで言葉が出なかったけど、同時に嬉しかった……
10年後の君
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