薔薇に込めた約束



盛大な拍手。
眩しいほどのスポットライト。
淡い水色のドレスを身に纏い、その全てを一身に浴びて少女は幸せそうに微笑む。
そんな少女―――姫に緩やかに笑みを浮かべて僕は席を立った……




〜メーデー、メーデー〜




「疲れたーっ」

「その割には嬉しそうだけど?」


華やかなイルミネーションが街を彩って肌を刺すような寒さが鼻につく。
周りにいる奴らはクリスマスイブという恋人同士の甘い時間を過ごしていた。
きっと彼らからみたら僕と姫も同類だと思っているだろう。

…残念なことに違うけど。


「当たり前ですよ。優勝できましたし!」

「当然だね」


今日は姫のコンクール。
クリスマスにコンクールなんて中々センスがいい。
姫から来るよう誘われてきたけど、姫の演奏は飛び抜けて上手かった。
姫は嬉しそうに笑って真っ黒な空を見上げる。


「今日の演奏…どうでした?」

「聞かなくてもわかるでしょ」

「そうなんですけど……今日だけは、言葉にしてほしくて」


寒さからだろうか。
それとも珍しく姫が照れているからだろうか。
僕の希望としては後者であってほしいけど、姫は少し頬を赤く染めていた。
そんな風に言うなんて……本当、ずるい子だよね。


「…素晴らしかったよ」


たった一言。
しかも褒め言葉としてはなんともありふれた言葉。
こんな言葉他の人間から飽きるほど聞いただろうに。
…なのに、

姫は今日一番の輝いた笑顔を浮かべて僕と視線を合わせたんだ。
(まるで僕の言葉が一番嬉しいみたいじゃないか…)


「ありがとうございます!」

「…うん」


あぁこれだから。
……姫の満面の笑みは、苦手。
どくどくと心臓が飛び出そうなくらい高鳴って、でもそれは少し心地よくて。
不快でない、鼓動。
今まで感じたことない、生温い感情。
それらは全く知らない新しいもので、どうすればいうのかわからなくて。
何も言えなく、なる。


「そうだ!私が有名になったらコンサートの時薔薇の花100本持ってきてくださいね」

「なんでそうなるの」

「私がほしいんです!」


絶対ですよ、と悪戯っぽく笑った姫に一つ溜め息。
しょうがない…という意味を含めば、姫は可笑しそうに笑った。
きっと僕は次の演奏会に薔薇を用意して行くだろう…そう、確信しながら。



薔薇に込めた約束

- 8 -

*前次#


ページ:

back
ALICE+