認めたくない(認めれば楽なの、に)



後悔、なんて言葉使いたくないけど。
僕は今でもあの時のことは後悔してる。
もっと…姫に優しく接せたんじゃないかって。
仮にできなかったとしても、君を一人にしない方がよかった……




〜メーデー、メーデー〜




「もうすぐですね…」


急に呟かれた言葉に僕は書類から目をあげて姫に視線を投げ掛ける。
姫は僕の視線が向いたことに気がついたのか小さく首を傾げた。


「わかりませんか?」

「…卒業式?」


確か学校行事で残っているのはこれだけだったはず……
そう思って答えれば姫は可笑しそうにクスクスと笑う。
少し不機嫌そうにむっと眉を顰めると姫は困ったように苦笑に変わる。


「すいません…あまりにも雲雀さんらしくて。もうすぐバレンタインですね」

「…あぁ、そういえばそうだね」


よく考えれば姫と会ってもうすぐ一年……
もう何年も一緒にいる気がするけど、まだ一年も経っていなかったんだ。

…そう思うと何だか不思議な気分。


「今年も没収するんですか?」


何を、なんて聞かなくてもわかる。
姫に会ったきっかけ…チョコ、だ。
校則は絶対…破る人間は誰であろうと許さない。……けど。


「姫は、あげないの?」

「私…ですか?」


唐突な問いに姫は目を瞬かせると、何故か僕から目を逸らして「…あげたい人は、いますよ」と答えた。
あげたい人…つまり、好きな人が、いるということ。
姫は友チョコだの義理チョコだのあげるような人間でないことは十分知ってる。
だから必然的にあげる人間は本命、だとすぐにわかった。


「……っ」


―――途端に沸き上がる、不快感。
何故かもわからないこの感情に苛立ちだけが残る。
様子が変だと察したのか姫は心配そうに僕の名前を呼んだ。
その声に応えることさえ煩わしく思えて、何も言わず立ち上がった。


「雲雀さん、どこに、」

「うるさい」

「……っ」

「君には関係ない」


これじゃ八つ当たりだ。…わかってる。
でも、今の僕にはこの反応しかできなかった。
ハッと息を飲んだ気配がしたけど僕は振り返らず苛々をぶつけるように強くドアを閉める。

…自分で閉めたはずなのに、どこか胸が痛くて。
力が抜けるようにずるずるとその場に座り込んで重苦しい溜め息をついた。

何をやってるんだろう…
姫が誰にあげようと僕には関係ないはずなのに、なんで……あんな、言い方。
わけがわからないよ。
姫といると…知らない感情が僕を支配する。
安心するような生温い感情や激しい不快感に似た感情……

全部、全部しらなくて。

(どうすればいいのか、わからなくて、)

…結局、もやもやする。


「―――……」


なら、いっそのこと。
―――この感情を捨ててみようか……

そう思ってしまうけど、捨てきれず。
ただこのもやもやを消すために外に出て視界に入る奴を徹底的に咬み殺すしかなかった……



認めたくない(認めれば楽なの、に)

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